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27話
しおりを挟む笑顔のリアンに怯えるヴァプール王国の人たち。
「ば、化け物……!」
リアンを見てブルブルと震え始めているのは、恐らく悪いことをしたと言う自覚を持っている人だ。もう一度、パチンとリアンが指を鳴らす。「ぐぁぁあっ!」と誰かが倒れた。リアンは冷たい瞳でそれを見ていた。
化け物と呼ばれたリアンは、それに関してはあまり気にしていないようだった。
……わたくしは、ぎゅっと胸元で両手を組んだ。
「リアンは、化け物ではありません……!」
リアンがわたくしのほうに顔を向けた。少し、驚いたように目を丸くしている。
「――悪事を働いた人が貴族だからと言う理由で罰せられないというのは……、間違っています」
わたくしは歩き出した。ヴァプール王国の人たちに近付いて行く。リアンが指を鳴らして、その雷に命中した人は蹲って苦しんでいた。……貴族は、領民を守るのが仕事ではなかったのだろうか。……贅沢三昧を繰り返して、領民を傷つけていく人を……わたくしは認めたくない。
「……化け物と言うのは、人を人として見ずに苦しめている人のことではないでしょうか?」
うめき声が響く会場に、わたくしの声が響いた。聞こえているかはわからないけれど。この国の貴族たちを……わたくしが居ることで守っていたのだとしたら、わたくしの存在は……。
「……わたくしはユニコーンの乙女として、あなたたちを守っていたの……?」
「イザベラは悪くないよ。悪いのは、腐敗している貴族なのだから」
「……ランシリル様。ヴァプール王国の平民たちを、神帝国は受け入れて頂けますか?」
ランシリル様へと身体を向ける。ランシリル様はちらりとお父様を見た。お父様はわたくしへ小さく首を縦に動かした。……わたくしはお父様へ笑みを浮かべる。
「ユニコーンの乙女、イザベラは……ヴァプール王国の平民たちを神帝国へ受け入れることを提案します。そして、リアンが許す貴族も。……彼の目は、確かだから」
「あ、平民でも悪い人は入れないからね」
さらりとリアンが訂正した。
「で、では受け入れられない人たちは、どうすれば……?」
「――この国と共に、生きてください」
どのくらいの人が残るのかはわからない。ただ、ひとつだけ言えるのは……恐らく、この国は急速に衰退するだろう。そして、何も残らず最期を迎えるだろうと言うこと。
「……わたくしはもう、神帝国の者ですから」
ユニコーンの乙女として、神帝国の国民を守りたい。そして、リアンのことを化け物と言った人たちのことは――許せない。
「そ、そんな……。ユニコーンの乙女! 我々を見捨てるというのか!」
「……可笑しなことをおっしゃいますね。見捨てるも何も……、わたくしはあなた方の言う『化け物』の乙女ですわよ? 『化け物』の力を、欲しているわけではありませんよね?」
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