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26話

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「口が過ぎるんではないかね、ただの子爵が! ユニコーンの研究しかしておらん者が!」
「あ、神帝国での爵位は男爵です」
「下がっとる!」

 ……お父様……、なんて、なんて……シリアスが続かない方……。わたくしがリアンに視線を向けると、リアンは首を傾げた。先程までのリアンの話し方……どちらがリアンの素なのだろうか。……いえ、それは今は関係ないわね。

「ところが、その方は神帝国の王位継承権があるんですよね……」
「……え?」
「と言うか、次期陛下です」
「それバラしちゃう? バラしちゃうの? 折角色々誤魔化していたのに!」

 ……神帝国の、次期陛下……?
 ……聞いておりません、お父様! そもそも王位継承権がある人が駆け落ちしたのですか!? ツッコみたいけどツッコめないこの雰囲気。

「イザベラのパパ、偉い人だったの?」
「いや、それは違いますよ、アリコーン様。偉いのは王様です、王様。俺はその人の子どもってだけ」

 ……充分偉い人なのでは……? だめだ、混乱して来た。

「神帝国の陛下はまだ元気ですから、この人が陛下になるのはもう少し先ですけどね」

 ……そう言えば、わたくしまだ一度も陛下にお会いしていないような……。ちらりとランシリル様を見ると、にこりと微笑まれた。……本当にお元気なのかしら。そんな疑惑を抱きつつ、わたくしはお父様を見つめる。

「それに、偉い人の子どもだからって選ぶっていちゃあ、見えるもんも見えませんからね」

 お父様のその言葉は、確実に貴族と王族に向けた言葉だった。刺々しい口調はあまり聞いたことがなかったので、お父様は怒るとこうなるのね、って変なところで感心してしまった。

「この国をどうにかして立て直さないと、本当に滅ぶだけですよ。何の対策もしてないんでしょう、どうせ」
「い、言わせておけば……! 誰かあいつの口を閉じさせろ、おい、なぜ誰も動かん!」
「そりゃ神帝国と争う気がないからでしょう。あーあ、やだやだ、イザベラ、ああいう大人になっちゃダメだぞ」
「え? あ、は、はい……?」

 話し合いはどこに行ったのでしょうか。子ども同士の喧嘩を見ている気分になって来た。リアンはじーっとお父様と、お父様と言い合っている貴族を眺めて一言。

「――うるさいなぁ」

 と呟いた。

「イザベラのパパが言う話し合いって、ただの言い争いってことなの? それなら、誰が悪いのかハッキリさせてからにしようよ!」
「り、リアン……?」
「ほら、こうやって」

 パチン、とリアンが指を鳴らすと部屋の中だと言うのに雷が誰かを襲った。……今のは、一体……? と言うか……ディラン殿下に命中したのだけど……生きているかしら……?
 更に混乱をしていると、リアンがじっとヴァプール王国の人たちに言葉を発した。

「死んでないから安心してね。ただ、ボクのコレは悪い人にランダムで当たるから、当たらなかったら良い人だよ、良かったね!」
「り、リアン、そんなことをして大丈夫なの……?」
「だって一番わかりやすいじゃない。――ボクの力は正しいことのためにあるって、お母さんとお父さんが言っていたんだ! さぁ、次は誰の番かな?」
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