上 下
21 / 38

21話

しおりを挟む

「……それにしても、青色のローブって不思議な感じね」
「神帝国では一部の人のみに許された色だそうですよ」
「へぇ……」
≪イザベラー! 来たよー!≫

 丁度良いタイミングでリアンが来た。バルコニーの扉を開けて中へ招く。

「それでは、ランシリル様の元へ向かいましょう」
「そうね」

 リアンはアリコーンの姿のまま歩き出す。わたくしは荷物を持とうとしたけれど、エマが先に持ってしまった。にこっと微笑むエマは、わたくしに荷物を持たせようとはしなかった……。
 ……ランシリル様は既に準備を終えていたようだ。そして、わたくしたちに気付くと微笑みを浮かべて「お待ちしておりました」と口にした。

「転移魔法を使います。本日は私と、ユニコーンの乙女、アリコーン様、それから護衛にヒューバートとジェレミーで行きます。招待状の内容が終わり次第、戻りますので……」

 一体どんな内容なんだろう……。……ちょっと気になるけれど、ランシリル様はにこにこと笑っていて聞き出せる雰囲気ではない……。あまり気にしちゃダメかしら……?

「アリコーン様の分の服も用意しました」
「え、そうなんですか?」
「はい。なので、あちらで人型になるのでしたら、私が用意した服を着ていただきたく……」
≪良いよー≫
「……大丈夫みたいです」

 リアンがパタパタと翼を動かす。……リアンはいつも通りね。わたくしはちょっとドキドキと緊張して来た。ゆっくりと深呼吸を繰り返して心を落ち着かせてから、わたくしはランシリル様に向かって小さくうなずいた。

「では、行きましょうか」
「はい、お願いします」

 ランシリル様はどこからか杖を取り出して……え、本当にどこから取り出したの? そんなに長い杖一体どこから……? と驚いているうちに転移魔法が発動した。……ふわっと浮遊感。不思議な感じ……、あ、荷物! と思ったら、ヒューバートがしっかりエマから受け取っていたみたい……。

「つきましたよ」
「え、もう!?」
「転移魔法ですから」

 さらりと言われてわたくしは目を瞬かせた。……あの時は寝ていたけれど、転移魔法ってそんなにあっさり目的地につくのね……。

「それでは、参りましょう」
「はい」

 ……ここ、王宮の近くだわ。……まさか、ヴァプール王国に来ることになるとは思わなかった……。
 王宮に向かうわたくしたちの姿を見て、ひそひそとなにかを言われているようだ。わたくしよりもリアン……アリコーンがいることに驚いているようだけど……。
 王宮の門番に招待状を差し出すランシリル様。門番は招待状を確認すると、王宮へ入れてくれた。

「……緊張していますか?」
「……バレてます?」
「そんなに緊張しなくても、イザベラ様はイザベラ様のままで良いのですよ」
「……ありがとうございます」

 わたくしは、わたくしのままで……。
 王宮内に入り、目的地へと足を運ぶランシリル様。その足取りはまるでこの王宮内を全て知り尽くしているように的確だ。

「――さぁ、ここが目的地です」
「……ここは、大広間?」
「ええ、パーティーに参加して欲しいとのことでしたので」
「……そろそろ、なんのパーティーか教えて頂けませんか」
「見ればわかりますよ」

 ランシリル様がそう言うと、ヒューバートとジェレミーが扉を開けた。……中に居た人たちが一斉にわたくしたちへ視線を向ける。ランシリル様が一歩踏み出して、中へと入った。

「神帝国から参上しました、神官長のランシリルと、ユニコーンの乙女、イザベラ様です。……そして、本日はアリコーン様も来ていただけました。護衛の二人の入室もお許し願いたい」

 凛とした声だった。ざわざわとしていた会場に、ランシリル様の声が広がり、静かになる。

「良く来てくださいました、神帝国の神官長様とユニコーンの乙女……。久しぶりだな、イザベラよ」
「お久しぶりでございます、国王陛下」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

婚約破棄されて追放された私、今は隣国で充実な生活送っていますわよ? それがなにか?

鶯埜 餡
恋愛
 バドス王国の侯爵令嬢アメリアは無実の罪で王太子との婚約破棄、そして国外追放された。  今ですか?  めちゃくちゃ充実してますけど、なにか?

完結 白皙の神聖巫女は私でしたので、さようなら。今更婚約したいとか知りません。

音爽(ネソウ)
恋愛
もっとも色白で魔力あるものが神聖の巫女であると言われている国があった。 アデリナはそんな理由から巫女候補に祀り上げらて王太子の婚約者として選ばれた。だが、より色白で魔力が高いと噂の女性が現れたことで「彼女こそが巫女に違いない」と王子は婚約をした。ところが神聖巫女を選ぶ儀式祈祷がされた時、白色に光輝いたのはアデリナであった……

二度目の婚約者には、もう何も期待しません!……そう思っていたのに、待っていたのは年下領主からの溺愛でした。

当麻月菜
恋愛
フェルベラ・ウィステリアは12歳の時に親が決めた婚約者ロジャードに相応しい女性になるため、これまで必死に努力を重ねてきた。 しかし婚約者であるロジャードはあっさり妹に心変わりした。 最後に人間性を疑うような捨て台詞を吐かれたフェルベラは、プツンと何かが切れてロジャードを回し蹴りしをかまして、6年という長い婚約期間に終止符を打った。 それから三ヶ月後。島流し扱いでフェルベラは岩山ばかりの僻地ルグ領の領主の元に嫁ぐ。愛人として。 婚約者に心変わりをされ、若い身空で愛人になるなんて不幸だと泣き崩れるかと思いきや、フェルベラの心は穏やかだった。 だって二度目の婚約者には、もう何も期待していないから。全然平気。 これからの人生は好きにさせてもらおう。そう決めてルグ領の領主に出会った瞬間、期待は良い意味で裏切られた。

皇子の婚約者になりたくないので天の声に従いました

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
幼い頃から天の声が聞こえるシラク公爵の娘であるミレーヌ。 この天の声にはいろいろと助けられていた。父親の命を救ってくれたのもこの天の声。 そして、進学に向けて騎士科か魔導科を選択しなければならなくなったとき、助言をしてくれたのも天の声。 ミレーヌはこの天の声に従い、騎士科を選ぶことにした。 なぜなら、魔導科を選ぶと、皇子の婚約者という立派な役割がもれなくついてきてしまうからだ。 ※完結しました。新年早々、クスっとしていただけたら幸いです。軽くお読みください。

氷狼陛下のお茶会と溺愛は比例しない!フェンリル様と会話できるようになったらオプションがついてました!

屋月 トム伽
恋愛
ディティーリア国の末王女のフィリ―ネは、社交なども出させてもらえず、王宮の離れで軟禁同様にひっそりと育っていた。そして、18歳になると大国フェンヴィルム国の陛下に嫁ぐことになった。 どこにいても変わらない。それどころかやっと外に出られるのだと思い、フェンヴィルム国の陛下フェリクスのもとへと行くと、彼はフィリ―ネを「よく来てくれた」と迎え入れてくれた。 そんなフィリ―ネに、フェリクスは毎日一緒にお茶をして欲しいと頼んでくる。 そんなある日フェリクスの幻獣フェンリルに出会う。話相手のいないフィリ―ネはフェンリルと話がしたくて「心を通わせたい」とフェンリルに願う。 望んだとおりフェンリルと言葉が通じるようになったが、フェンリルの幻獣士フェリクスにまで異変が起きてしまい……お互いの心の声が聞こえるようになってしまった。 心の声が聞こえるのは、フェンリル様だけで十分なのですが! ※あらすじは時々書き直します!

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

処理中です...