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16話
しおりを挟む食堂で食事を摂り、他の人たちとも会話をした。……とは言え、わたくしはアリコーンの言葉をみんなに伝えるような……通訳? みたいな感じだったけど。
そのうちにアリコーンは疲れちゃったみたいで、≪部屋戻りたい……≫と甘えてきたので、食堂から部屋へと急いで戻った。
アリコーンがこんなに注目を集めることってなかっただろうから、たくさんの視線を浴びて怖くなってしまったのかもしれない。
部屋に戻り、ぷるぷる震えるアリコーンを抱きしめる。もう大丈夫よ、と伝えるように。
≪うう……≫
「……大丈夫じゃなさそうね」
≪ちょっと酔っただけ……≫
食堂にアリコーンが居ると一気に広まったのだろう。確かにたくさんの人がアリコーンを見に来ていた。
「もう大丈夫ですよ、アリコーン様。後は見知った顔だけですからね」
≪うん……≫
慰めるような言葉にアリコーンがうなずく。……ずっと一緒に居たけれど、アリコーンって結構な人見知りだったのね……。……それもそうか、アリコーンが人間と一緒に居ること自体が奇跡のようなものなのだし……。
「お嬢様もお疲れ様でした」
「ありがとう」
≪イザベラに話し掛ければ良いのに、何でボクにばっかり……≫
いじけるような声にわたくしはくすりと笑った。そっとアリコーンを撫でると、もっとと言うように動く。
「お嬢様しか言葉がわからない、と言うのは……中々不便ですね」
「人数が多くなると余計に、ね」
≪……ボク、迷惑?≫
「違うわよ。迷惑なんかじゃないわ。わたくしはアリコーンが居てくれてとても心強いもの」
しゅんとしていたアリコーンが、ぱっと目を輝かせた。わたくしと一緒に居られるのが嬉しいのだと、目を見ればわかるくらいの、輝き。
≪本当はボクが人間の言葉を話せたらいいんだけどね≫
「難しいんじゃないかしら……?」
実はわたくしとアリコーンの会話は、テレパシーだ。……まぁ、だからこそアリコーンの言葉をわたくしがみんなに伝えていたのだけど。
「……さて、それではみんなを呼んで、服を作りましょうか」
「ええ、そうしましょう」
この布たちを何とかしないといけないから……。
そうして、エマがフランクリンの使用人たちを呼んで、一緒に服を作ることになった。作り方は割と簡単みたいで、みんなでワイワイ言いながら服を作っていく。アリコーンはその様子を楽しそうに眺めていた。
見知った人たちならアリコーンもリラックスできるみたいだし、少しずつ、見られることに慣れていくのかもしれないけれど……。今は、まだ。もう少し、この時間を大事にしたいと思うのは……ワガママかしら?
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