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10話
しおりを挟む「お母様は、お父様のどこに……?」
「そうねぇ、研究馬鹿だったところかしら?」
「え」
それはちょっと意外な答えだった。ユニコーンの乙女の研究をしているお父様に惹かれたってこと?
「私はね、その時無理矢理夜会に連れて来られたのよ。もちろん、そんな夜会が楽しいわけもなくてね……」
お母様は懐かしそうに目元を細めて、その夜会のことを語ってくれた。父親が何とか手に入れた男爵の地位、その当時十五歳と言う若さだったお母様は夜会で壁の花になっていた。そこに近付いてきたのがお父様だったようだ。
お父様はお母様にこの国のユニコーンの乙女の話を聞かせたらしい。その話に、お母様が『ユニコーンと村娘は、ある意味幸せだったかもしれませんね』と言ったことから、お父様の興味を引いたらしい。
「お母様はどうしてそう思ったのですか?」
「確かに悲劇だけど、村娘は殺されるとわかっていてユニコーンに会いに行ったんじゃないかって思うのよ。自分の望まぬ結婚よりもユニコーンに殺されるほうを選んだんじゃないかって」
「結婚?」
「むかーしの村はね、一度契りを交えたら結婚しなくてはいけないって風習があったそうよ」
わたくしはそれを聞いて思わず身震いした。怖い風習だ。純潔を奪われ村娘は、それがイヤでユニコーンに殺されるのを望んだ? ……ユニコーンも、愛した村娘を殺すのはつらかったんじゃないかなぁ……。純潔を奪った村人を殺しているみたいだし……。……何人くらい、村民は生き残ったんだろう。昔の話だから、多分もうそんな村はないと思うけど……。
「……ねぇ、アリコーン。わたくしとディラン殿下がそういう関係になったら、どうしていた?」
≪人間は人間と結婚するのが一番だって聞いてるから、寂しいけど離れるかなぁ?≫
「そうなの?」
≪だって人間とボクらじゃ寿命が違うもん。おじいちゃん、ずっと乙女のこと好きだったけど、おばあちゃんのことも好きになれたって言ってたよ!≫
……それはユニコーンと乙女が恋愛関係にあったことを言っているのかな? そもそも、それ一体何年前の話なんだろう……?
そして、ユニコーンの雌は逆に人間の男性が好きだったりするんだろうか……。謎はつきない。
「……あれ、夜会で会ったと言うことは、お父様、この国でも貴族だったのでは……?」
「……そのうちわかると思うから、私からは言わないわ。さてと、長居しちゃったわね。私は部屋に戻るけど……大丈夫? イザベラ」
「平気よ、アリコーンもいるし、ね!」
「アリコーン様、イザベラのことをよろしくお願いします」
≪任せて!≫
お母様はそう言って部屋から出て行った。
アリコーンは人間の言葉がわかるのに、アリコーンの言葉がわたくししか聞こえないのは何だか寂しいわね……。
「わたくしの他にも乙女って居るのかしら?」
≪イザベラだけじゃないかなぁ?≫
……ユニコーンはずっと、わたくしのことを見守ってくれていたみたいなのよね。ヴァプール王国の王都とはいえ、森に近い家に住んでいたから……。
「……今度、アリコーンの家族たちを迎えないとね」
≪うん!≫
どこに住むつもりかわからないけれど、多分こっちに向かっているだろうから話しておかないといけないわよね。
ブラッシングを終えて上機嫌なアリコーンと一緒に、わたくしたちは部屋から出ようとした。
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