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9話

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「……お父様が神帝国の人だったとは……」
「夜会でお会いしたのよね。懐かしいわぁ。あの人、あの頃から研究熱心だったのよね」

 ……神帝国を選んだのは、ユニコーンの乙女の話があるからだと思っていたけれど……故郷だったんだ。と言うか、神帝国で伝わっている話と、ヴァプール王国で伝わっている話の違いがすごい。ヴァプール王国のはハッピーエンドだったもの。

「ユニコーンにも色々あるのね」
≪?≫

 不思議そうにわたくしを見るアリコーンに、翼を撫でる。そう言えばブラッシングしてあげるって言っていたから、今のうちにしちゃおう。ブラッシング用のブラシを取り出して、ブラッシングを始める。

「お父様とお母様って、いつ出会ったんですか?」
「神帝国のお祭りの日よ。神殿で夜会が行われてね、そこで出会ったの」
「……? 神殿で夜会……?」
「神帝国はちょっとややこしいのよね……。ヴァプール王国ではお城があったでしょう? そこに王族が住んでいるわよね。神帝国の皇族は神殿で暮らしているの」
「えっ!?」
「神殿がお城みたいなものね。ここが一番の中枢だから。だからこそ、ユニコーンの乙女であるイザベラは厳重に守られるわ」

 わたくしが、厳重に守られる? とお母様を見ると、お母様はそっと目を伏せた。

「そしてきっと、神帝国に加護が渡るでしょう。……そうなれば、ヴァプール王国は……、最悪、滅んでしまうかもしれないわね」
「え……」
「ユニコーンの乙女がどうして国に加護を与えるのか……。ユニコーンの乙女が居る場所に、ユニコーンが住まいを移すからよ」

 ……ってことは、アリコーンの家族もこっちに向かっているかもしれない?
 アリコーンに視線を向けると、ブラッシングを気持ちよさそうに受けていた。

「お母様もユニコーンの乙女について詳しいのですね」
「……あの人の妻だもの。イヤでも覚えるわよ」

 そう言ってコロコロと鈴を転がすように笑うお母様の姿は、とても綺麗だった。……それにしても、よくあのお父様とお母様が結婚出来たなぁと感心してしまう。

「きっとアリコーン様のご家族も、こっちに向かっているでしょうね」
「……そうなったら騒ぎになるのかしら?」
≪人間の近くよりは森の中に住むと思うから、心配ないと思うよ!≫
「そう?」

 ……でも、確かに……わたくしもユニコーンってこの子くらいしか見たことがないような……。
 有翼のユニコーン。それをアリコーンと呼ぶ。アリコーンは国によって悪だったり光だったりするけれど、ヴァプール王国と神帝国は光の象徴としている。……と、お父様から聞いたことがある。

「ユニコーンの乙女と言っても、わたくし、全然アリコーンたちのことを知らないのよね……」
≪知らなくても良いんじゃない? だってそれは過去のことなんだし。イザベラはボクが居るからいーのー!≫

 ちょっとしたやきもちかしら。可愛いなぁと撫でてあげると、嬉しそうに翼を動かした。
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