8 / 38
8話
しおりを挟む「ユニコーンの乙女について、まだイザベラに話していなかったね」
「童話とは違うのですか?」
「神帝国とヴァプール王国ではちょっと内容が違うんだ」
≪あ、それボク知ってるかも≫
え、アリコーン知っていたの!? 目を瞬かせると、コホンとお父様が咳払いをしてからユニコーンの乙女について話し始めた。
「昔々、あるところに、見目麗しい村娘が川へ洗濯へ向かいました――……」
そんな言葉から始まった物語は、川辺でユニコーンと村娘が出会い、ユニコーンは村娘を愛した。そして村娘もまた、ユニコーンを愛した。
だが――人間と獣の愛は、長くは続かなかった。
村娘を一方的に愛する村人によって、村娘は無理矢理純潔を奪われた。ユニコーンが求めるのは純潔の乙女であると言うことを、村人は知っていたから。
純潔を奪われた村娘は、村人の目を盗んで川辺へと向かう。ユニコーンは純潔を失った乙女に怒り狂い、村娘を殺した。だが、村娘は幸せそうに天へと召された。愛するユニコーンに命を奪われることで、村娘は自分の愛を貫いた。
そして、ユニコーンは村娘に残された村人の匂いを辿り、村人をも殺した。それを止めようとした村民たちも、ユニコーンに殺された。血で赤く染まったユニコーンは、残りの村民たちによって殺された。……ユニコーンの命が落ちた時、天から光が差した。村娘がユニコーンを迎えに来たのだ。
『私は、ずっと、あなたを愛している。一緒に逝きましょう、ユニコーン』
そう言って、村娘はユニコーンの魂を抱いて天へと向かう。村娘は、村人たちに対して恨み言のひとつも言わなかった。
村民たちはそんな彼女に、なんと酷いことをしたのだろう。これからは、このようなことがないように愛する者たちの邪魔をするのはやめよう。
そしてこの事件を忘れないために、村娘とユニコーンのことを語り継いでいこう。
ユニコーンの乙女には、手を出さないように……。
……と言う、中々に重い内容だった。
≪ぐすっぐすっ、かわいそう!≫
「……そうね、何だか、こう、イヤな感じ……」
「これが神帝国のユニコーンの乙女の、一番古い話。もっとあるけどね。父さんはこの物語を聞いた時に、なぜユニコーンの乙女が国に加護を施すのかが謎だった。だからこそ、ユニコーンの乙女の研究を始めたんだ。家族には『そんなことより勉強しろ!』って言われたけどね!」
「そのうちに私と出会って駆け落ちしたのよねぇ」
「駆け落ち!?」
……よくそれで子爵になれたなぁ、と思ったら、ヴァプール王国でわたくしが生まれた後、ユニコーンの乙女がいると言うことで子爵にしてもらったらしい。だから領地がなかったのかもしれない。……なんで男爵じゃなかったのかが気になるわ……。
「お父さん、爵位よりも研究資料のほうが良かった……」
「ユニコーンの乙女馬鹿が居るわ……」
「お母様の言葉に同意致します」
≪イザベラのパパ、バカなの~?≫
「良いかい、イザベラ。爵位は上に上になるほど自分の時間が持てなくなるからね! ほどほどが一番良いよ! っと、そろそろあいつらの耳にも届いてそうだし、お父さんは研究に戻るね!」
「は、はぁ……」
≪バイバーイ!≫
「…………本当、戻ってきて大丈夫だったのかしら、あの人……」
ぽつりと呟かれた言葉に、わたくしは首を傾げた。
49
お気に入りに追加
2,955
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄されたら騎士様に彼女のフリをして欲しいと頼まれました。
屋月 トム伽
恋愛
「婚約を破棄して欲しい。」
そう告げたのは、婚約者のハロルド様だ。
ハロルド様はハーヴィ伯爵家の嫡男だ。
私の婚約者のはずがどうやら妹と結婚したいらしい。
いつも人のものを欲しがる妹はわざわざ私の婚約者まで欲しかったようだ。
「ラケルが俺のことが好きなのはわかるが、妹のメイベルを好きになってしまったんだ。」
「お姉様、ごめんなさい。」
いやいや、好きだったことはないですよ。
ハロルド様と私は政略結婚ですよね?
そして、婚約破棄の書面にサインをした。
その日から、ハロルド様は妹に会いにしょっちゅう邸に来る。
はっきり言って居心地が悪い!
私は邸の庭の平屋に移り、邸の生活から出ていた。
平屋は快適だった。
そして、街に出た時、花屋さんが困っていたので店番を少しの時間だけした時に男前の騎士様が花屋にやってきた。
滞りなく接客をしただけが、翌日私を訪ねてきた。
そして、「俺の彼女のフリをして欲しい。」と頼まれた。
困っているようだし、どうせ暇だし、あまりの真剣さに、彼女のフリを受け入れることになったが…。
小説家になろう様でも投稿しています!
4/11、小説家になろう様にて日間ランキング5位になりました。
→4/12日間ランキング3位→2位→1位
月が隠れるとき
いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。
その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。
という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。
小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。
あなたの姿をもう追う事はありません
彩華(あやはな)
恋愛
幼馴染で二つ年上のカイルと婚約していたわたしは、彼のために頑張っていた。
王立学園に先に入ってカイルは最初は手紙をくれていたのに、次第に少なくなっていった。二年になってからはまったくこなくなる。でも、信じていた。だから、わたしはわたしなりに頑張っていた。
なのに、彼は恋人を作っていた。わたしは婚約を解消したがらない悪役令嬢?どう言うこと?
わたしはカイルの姿を見て追っていく。
ずっと、ずっと・・・。
でも、もういいのかもしれない。
我慢するだけの日々はもう終わりにします
風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。
学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。
そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。
※本編完結しましたが、番外編を更新中です。
※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。
※独特の世界観です。
※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結済】次こそは愛されるかもしれないと、期待した私が愚かでした。
こゆき
恋愛
リーゼッヒ王国、王太子アレン。
彼の婚約者として、清く正しく生きてきたヴィオラ・ライラック。
皆に祝福されたその婚約は、とてもとても幸せなものだった。
だが、学園にとあるご令嬢が転入してきたことにより、彼女の生活は一変してしまう。
何もしていないのに、『ヴィオラがそのご令嬢をいじめている』とみんなが言うのだ。
どれだけ違うと訴えても、誰も信じてはくれなかった。
絶望と悲しみにくれるヴィオラは、そのまま隣国の王太子──ハイル帝国の王太子、レオへと『同盟の証』という名の厄介払いとして嫁がされてしまう。
聡明な王子としてリーゼッヒ王国でも有名だったレオならば、己の無罪を信じてくれるかと期待したヴィオラだったが──……
※在り来りなご都合主義設定です
※『悪役令嬢は自分磨きに忙しい!』の合間の息抜き小説です
※つまりは行き当たりばったり
※不定期掲載な上に雰囲気小説です。ご了承ください
4/1 HOT女性向け2位に入りました。ありがとうございます!
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる