【完結】婚約破棄されたユニコーンの乙女は、神殿に向かいます。

秋月一花

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8話

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「ユニコーンの乙女について、まだイザベラに話していなかったね」
「童話とは違うのですか?」
「神帝国とヴァプール王国ではちょっと内容が違うんだ」
≪あ、それボク知ってるかも≫

 え、アリコーン知っていたの!? 目を瞬かせると、コホンとお父様が咳払いをしてからユニコーンの乙女について話し始めた。

「昔々、あるところに、見目麗しい村娘が川へ洗濯へ向かいました――……」

 そんな言葉から始まった物語は、川辺でユニコーンと村娘が出会い、ユニコーンは村娘を愛した。そして村娘もまた、ユニコーンを愛した。
 だが――人間と獣の愛は、長くは続かなかった。
 村娘を一方的に愛する村人によって、村娘は無理矢理純潔を奪われた。ユニコーンが求めるのは純潔の乙女であると言うことを、村人は知っていたから。
 純潔を奪われた村娘は、村人の目を盗んで川辺へと向かう。ユニコーンは純潔を失った乙女に怒り狂い、村娘を殺した。だが、村娘は幸せそうに天へと召された。愛するユニコーンに命を奪われることで、村娘は自分の愛を貫いた。
 そして、ユニコーンは村娘に残された村人の匂いを辿り、村人をも殺した。それを止めようとした村民たちも、ユニコーンに殺された。血で赤く染まったユニコーンは、残りの村民たちによって殺された。……ユニコーンの命が落ちた時、天から光が差した。村娘がユニコーンを迎えに来たのだ。

『私は、ずっと、あなたを愛している。一緒に逝きましょう、ユニコーン』

 そう言って、村娘はユニコーンの魂を抱いて天へと向かう。村娘は、村人たちに対して恨み言のひとつも言わなかった。
 村民たちはそんな彼女に、なんと酷いことをしたのだろう。これからは、このようなことがないように愛する者たちの邪魔をするのはやめよう。
 そしてこの事件を忘れないために、村娘とユニコーンのことを語り継いでいこう。
 ユニコーンの乙女には、手を出さないように……。

 ……と言う、中々に重い内容だった。

≪ぐすっぐすっ、かわいそう!≫
「……そうね、何だか、こう、イヤな感じ……」
「これが神帝国のユニコーンの乙女の、一番古い話。もっとあるけどね。父さんはこの物語を聞いた時に、なぜユニコーンの乙女が国に加護を施すのかが謎だった。だからこそ、ユニコーンの乙女の研究を始めたんだ。家族には『そんなことより勉強しろ!』って言われたけどね!」
「そのうちに私と出会って駆け落ちしたのよねぇ」
「駆け落ち!?」

 ……よくそれで子爵になれたなぁ、と思ったら、ヴァプール王国でわたくしが生まれた後、ユニコーンの乙女がいると言うことで子爵にしてもらったらしい。だから領地がなかったのかもしれない。……なんで男爵じゃなかったのかが気になるわ……。

「お父さん、爵位よりも研究資料のほうが良かった……」
「ユニコーンの乙女馬鹿が居るわ……」
「お母様の言葉に同意致します」
≪イザベラのパパ、バカなの~?≫
「良いかい、イザベラ。爵位は上に上になるほど自分の時間が持てなくなるからね! ほどほどが一番良いよ! っと、そろそろあいつらの耳にも届いてそうだし、お父さんは研究に戻るね!」
「は、はぁ……」
≪バイバーイ!≫
「…………本当、戻ってきて大丈夫だったのかしら、あの人……」

 ぽつりと呟かれた言葉に、わたくしは首を傾げた。
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