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6話
しおりを挟む≪あそぼ、遊ぼ!≫
「何で遊ぶ?」
≪えっとね、魔力の塊投げて、取って来るの!≫
はいはい、と手のひらに魔力を込めて、丸いボールを作る。それをぽーいと遠くへ投げると、アリコーンは嬉しそうに駆けていった。まるで犬のようだ……。アリコーンって馬、だよね……?
ユニコーン自体、獰猛な生き物らしいんだけど、この子を見ていると全然そうは見えない。だけど、本当……可愛いのよね。褒めて褒めてと擦り寄って目をキラキラ輝かせるのも、ほんっとうに可愛い!
≪もっともっと!≫
「うん、遊ぼう!」
アリコーンと話していると、ついついわたくしも幼い言葉遣いになってしまう。
ユニコーン……伝説の生物。獰猛で、人をも襲うと伝えられてる。ただし、乙女は別。なぜかユニコーンは乙女が好きで、懐いてくれる。
わたしくしがユニコーンの乙女だと言うことを知っているのは、両親、屋敷の使用人、ヴァプール王国の陛下と王妃様。
王太子であるディラン殿下は、本来ならあのパーティーの後に両家揃って教えるつもりだったのだ。……婚約破棄したこと、わたくしたちが王都を出たこと、今頃たっぷり怒られているんだろうなぁ。怒られているだけなら良いけどねぇ。
――なんて、ね。
≪ねぇねぇ、イザベラはどうして、あんな男と婚約したの?≫
「えっ、ディラン殿下を知っているの?」
≪知っていたよ。イザベラの家にも来ていたじゃない。ボクは隠れていたけど。あいつが来るとイザベラと遊べなくて寂しかったもん!≫
……王太子をあいつと呼べるのはあなただけよ、アリコーン……。
「特に好意を持っていたわけじゃないけど……。ユニコーンの乙女って必ず陛下には教えないといけないのよ。んで、その時たまたま居合わせた第一王子のディラン殿下と婚約したの。ユニコーンの乙女だと言うことはディラン殿下には伏せていたから、知らなかったのね」
≪どうして伏せていたの?≫
「ユニコーンの乙女ってね、狙われやすいんだって。少しでもわたくしの危険を減らすためって仰っていたわ。あなたも狙われやすいのだから、気をつけなきゃダメよ」
≪はーい。イザベラお母さんみたい≫
「……せめて姉と言ってちょうだい……」
それからわたくしたちはボール投げを夢中でやった。何個もボールを作り上げて投げたり、たまにアリコーンが翼で打ち返したり。魔法のボールって自分で強度を決められるから便利なのよね。
痛くないように、柔らかく作っているから、当たっても安心。
≪ねぇ、イザベラー。王都から離れたこと、お母さんたちに伝えて良い?≫
「良いんじゃないかな……あ、待って。一応聞いてからにしておこう」
ダメって言われることはないだろうけど……。ボールを投げ続けてくたくたになった後にそう聞かれた。
≪そしてさー、いい加減ボクに名前つけてよー!≫
「アリコーンのままで良いじゃない……」
≪やだー! やだー! 種族名じゃなくて個人名が欲しいのー!≫
子どものようにジタバタと手足を動かす(ついでに翼も)アリコーンに、わたくしは小さく肩をすくめた。
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