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5話
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とりあえず、ランシリル様について行くわたくしたち。応接室、かな。わたくしたち全員を椅子に座らせてくれた。……神殿を訪れる人って多いのかしら。
アリコーンはわたくしの隣にいる。
「さて――それでは、色々と取り決めましょうか」
「……取り決める、ですか……?」
わたくしの不安そうな声を聞いて、ランシリル様はにこりと微笑んでわたくしたちをぐるりと見渡した。そして、すっと手を上げると、部屋にいた神官がお茶をみんなに渡してくれた。
そのお茶をこくりと一口飲む。温かいお茶は身体の芯まですぅっと入っていたような気がした。
「皆さんには、この神殿の中で過ごして頂こうと思います。その代わり――この神殿で働いてもらうことになりますが……」
「あ、あの。働くとはどのようなことを……?」
わたくしがそう尋ねると、ランシリル様はうーん、とちょっと考えて「そんなに変わりはありませんよ」と言った。
「変わりがない、とは?」
「掃除してもらったり、料理を作ってもらったり……。そうですね、男爵夫人は刺繍を子どもたちに教えたり、男爵はユニコーンの乙女の研究をしていただきたい。そして――イザベラ様には、治療を手伝っていただきたいのです」
「……治療、ですか?」
お母様の言葉に、ランシリル様はこくりとうなずいた。
……あれ? 男爵? とお父様に視線を向けると、パチンとウインクされた。後で説明してくれるってことかな?
「その前に、お勉強が待っていますが……」
「お、お勉強?」
「はい。神殿では勉学も教えています。そして、充分に勉学を終えたら、手伝っていただきたいのです」
「わ、わかりました……」
ちらりとアリコーンを見ると、アリコーンは≪遊ぶ? 遊ぶ?≫と目を輝かせていた。その目を見て、ランシリル様が小さく笑って立ち上がる。
「とりあえず、今日はもうお休みください。……彼らを丁重に部屋へ案内するように」
ランシリル様がそう言うと、若い神官たちがうなずいてわたくしたちに駆け寄った。
「イザベラ様とアリコーン様はこちらへ」
「は、はい……。行きましょう、アリコーン」
≪遊ぶの?≫
「……まだかな」
≪え~……≫
つまらなそうにそう言うアリコーンに、わたくしはくすくすと笑った。ランシリル様を追って歩いていくと、一層豪華そうな場所に辿り着いた。
「あ、あの……ここは一体?」
「あなたの部屋です、イザベラ様。アリコーン様も同じ部屋が良いかと思い、広い部屋にしました」
そう言ってランシリル様は扉を開けた。……わたくしとアリコーンが使うには、あまりにも広すぎる部屋でとっても驚いた。
「広すぎませんか?」
「アリコーン様に広々と使っていただくためです」
確かにこの広さならかなり広々と使えるだろうけど……。
「それでは、今日はゆっくり休んでください」
「あ、ありがとうございました……」
わたくしとアリコーンが部屋の中に入ると、ランシリル様は軽く頭を下げて扉を閉めた。
≪広いお部屋だね!≫
「そうね……。すごいわ……。アリコーン、部屋を破壊しちゃダメよ」
≪わかってるよー≫
むっとしたようなアリコーンに、わたくしは小さく笑って、「冗談よ」と言った。きっと最初からわかっていたのだろう、わたくしに擦り寄って来るアリコーンに、ぎゅっと抱き着いた。
アリコーンはわたくしの隣にいる。
「さて――それでは、色々と取り決めましょうか」
「……取り決める、ですか……?」
わたくしの不安そうな声を聞いて、ランシリル様はにこりと微笑んでわたくしたちをぐるりと見渡した。そして、すっと手を上げると、部屋にいた神官がお茶をみんなに渡してくれた。
そのお茶をこくりと一口飲む。温かいお茶は身体の芯まですぅっと入っていたような気がした。
「皆さんには、この神殿の中で過ごして頂こうと思います。その代わり――この神殿で働いてもらうことになりますが……」
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わたくしがそう尋ねると、ランシリル様はうーん、とちょっと考えて「そんなに変わりはありませんよ」と言った。
「変わりがない、とは?」
「掃除してもらったり、料理を作ってもらったり……。そうですね、男爵夫人は刺繍を子どもたちに教えたり、男爵はユニコーンの乙女の研究をしていただきたい。そして――イザベラ様には、治療を手伝っていただきたいのです」
「……治療、ですか?」
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……あれ? 男爵? とお父様に視線を向けると、パチンとウインクされた。後で説明してくれるってことかな?
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「お、お勉強?」
「はい。神殿では勉学も教えています。そして、充分に勉学を終えたら、手伝っていただきたいのです」
「わ、わかりました……」
ちらりとアリコーンを見ると、アリコーンは≪遊ぶ? 遊ぶ?≫と目を輝かせていた。その目を見て、ランシリル様が小さく笑って立ち上がる。
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「イザベラ様とアリコーン様はこちらへ」
「は、はい……。行きましょう、アリコーン」
≪遊ぶの?≫
「……まだかな」
≪え~……≫
つまらなそうにそう言うアリコーンに、わたくしはくすくすと笑った。ランシリル様を追って歩いていくと、一層豪華そうな場所に辿り着いた。
「あ、あの……ここは一体?」
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そう言ってランシリル様は扉を開けた。……わたくしとアリコーンが使うには、あまりにも広すぎる部屋でとっても驚いた。
「広すぎませんか?」
「アリコーン様に広々と使っていただくためです」
確かにこの広さならかなり広々と使えるだろうけど……。
「それでは、今日はゆっくり休んでください」
「あ、ありがとうございました……」
わたくしとアリコーンが部屋の中に入ると、ランシリル様は軽く頭を下げて扉を閉めた。
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≪わかってるよー≫
むっとしたようなアリコーンに、わたくしは小さく笑って、「冗談よ」と言った。きっと最初からわかっていたのだろう、わたくしに擦り寄って来るアリコーンに、ぎゅっと抱き着いた。
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