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「イザベラ。君との婚約破棄を、ここに宣言する!」
「かしこまりました。わたくしは神殿へ向かいます」
「……え?」
爵位の高い人たちが集まるこのパーティーで、隣に見目麗しい女性を置いて、このヴァプール王国の王太子であるディラン殿下に婚約破棄を宣言された。
わたくしは快く婚約破棄を受け入れた。あっさりと婚約破棄を認めたわたくしに、ディラン殿下は目を瞬かせた。
「ほ、本当に良いのか? 王妃になりたくないのか?」
「……何か誤解なさっているようですが……。ディラン殿下が王太子なのは、わたくしがユニコーンの乙女だからですわ」
そう言い残して、その場から去った。呆然とした表情を浮かべていたディラン殿下をみて、本当に気付いてなかったのかと呆れたけれど――……。おめでとうございます、ディラン殿下。あなたは明日から王太子ではありません。
ざわざわと騒がしいパーティー会場を抜け出して、わたくしは馬車へと乗り込んだ。
「……家にお願い」
「……かしこまりました、イザベラ様」
このヴァプール王国で知らない人は居ないだろう、ユニコーンの乙女の伝説。ユニコーンに愛された少女は王子様と恋に落ちて、乙女ではなくなった。だが、ユニコーンから受けていた祝福のおかげで、彼女の周りでは奇跡が起こり、国が豊かになったというおとぎ話。
だからこそ、ユニコーンの祝福を受けた女性は王族と結婚することになっている。……とは言え、流石にかなり昔の話だから、信じてくれる人はあまり居ないようだ。ユニコーンへの信仰も減ってしまっているからか、ユニコーンが姿を見せてくれることも少なくなったしね。
「まぁ、だからこそ子爵家のわたくしがディラン殿下と婚約したわけだけど……」
わたくしがユニコーンの乙女であると言うことは、トップシークレットなのだ。ユニコーンの乙女は富を運んで来るって言われているから。だからこそ、赤子の頃からユニコーンが遊びに来ていたのを両親は必死で隠していたらしい。
そんなことを考えていたら、タウンハウスについた。御者にチップを渡して、わたくしは屋敷の中へ入った。
「ただいま戻りました――あら、遊びに来ていましたのね。ごきげんよう、わたくしのお友達」
玄関口で、ユニコーン……いえ、翼を持っているからアリコーンかしら? が、顔を見せてくれた。
「……不思議ね、あなたの目を見ていると、今日あった嫌なことが消えていくようですわ」
そう言ってアリコーンに手を伸ばすと、すっと下を向いたので存分に撫でさせてもらう。角でわたくしを傷つけないようにするという、紳士的なアリコーンなのだ。
「お帰りなさいませ、イザベラお嬢様」
「ただいま戻りました。……一緒に居ても良いかしら?」
「もちろんでございます」
優しく微笑みを浮かべるのは、執事のオリヴァー。次期家令候補として、タウンハウスを守ってくれている。
「ねぇ、オリヴァー。お父様とお母様はいらっしゃる?」
「はい。お呼びしますか?」
「いえ、わたくしが向かいます」
婚約破棄されたこと、きちんと報告しないとダメよね。アリコーンは黙ってわたくしについて来てくれた。
「かしこまりました。わたくしは神殿へ向かいます」
「……え?」
爵位の高い人たちが集まるこのパーティーで、隣に見目麗しい女性を置いて、このヴァプール王国の王太子であるディラン殿下に婚約破棄を宣言された。
わたくしは快く婚約破棄を受け入れた。あっさりと婚約破棄を認めたわたくしに、ディラン殿下は目を瞬かせた。
「ほ、本当に良いのか? 王妃になりたくないのか?」
「……何か誤解なさっているようですが……。ディラン殿下が王太子なのは、わたくしがユニコーンの乙女だからですわ」
そう言い残して、その場から去った。呆然とした表情を浮かべていたディラン殿下をみて、本当に気付いてなかったのかと呆れたけれど――……。おめでとうございます、ディラン殿下。あなたは明日から王太子ではありません。
ざわざわと騒がしいパーティー会場を抜け出して、わたくしは馬車へと乗り込んだ。
「……家にお願い」
「……かしこまりました、イザベラ様」
このヴァプール王国で知らない人は居ないだろう、ユニコーンの乙女の伝説。ユニコーンに愛された少女は王子様と恋に落ちて、乙女ではなくなった。だが、ユニコーンから受けていた祝福のおかげで、彼女の周りでは奇跡が起こり、国が豊かになったというおとぎ話。
だからこそ、ユニコーンの祝福を受けた女性は王族と結婚することになっている。……とは言え、流石にかなり昔の話だから、信じてくれる人はあまり居ないようだ。ユニコーンへの信仰も減ってしまっているからか、ユニコーンが姿を見せてくれることも少なくなったしね。
「まぁ、だからこそ子爵家のわたくしがディラン殿下と婚約したわけだけど……」
わたくしがユニコーンの乙女であると言うことは、トップシークレットなのだ。ユニコーンの乙女は富を運んで来るって言われているから。だからこそ、赤子の頃からユニコーンが遊びに来ていたのを両親は必死で隠していたらしい。
そんなことを考えていたら、タウンハウスについた。御者にチップを渡して、わたくしは屋敷の中へ入った。
「ただいま戻りました――あら、遊びに来ていましたのね。ごきげんよう、わたくしのお友達」
玄関口で、ユニコーン……いえ、翼を持っているからアリコーンかしら? が、顔を見せてくれた。
「……不思議ね、あなたの目を見ていると、今日あった嫌なことが消えていくようですわ」
そう言ってアリコーンに手を伸ばすと、すっと下を向いたので存分に撫でさせてもらう。角でわたくしを傷つけないようにするという、紳士的なアリコーンなのだ。
「お帰りなさいませ、イザベラお嬢様」
「ただいま戻りました。……一緒に居ても良いかしら?」
「もちろんでございます」
優しく微笑みを浮かべるのは、執事のオリヴァー。次期家令候補として、タウンハウスを守ってくれている。
「ねぇ、オリヴァー。お父様とお母様はいらっしゃる?」
「はい。お呼びしますか?」
「いえ、わたくしが向かいます」
婚約破棄されたこと、きちんと報告しないとダメよね。アリコーンは黙ってわたくしについて来てくれた。
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