あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です。

秋月一花

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6話

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 ノイマイヤー侯爵夫人はそう言うと、お茶を飲んで立ち上がった。

「わざわざ来てもらって悪いのだけれど、まだ仕事が残っていて……後は若いお二人で、ね?」

 悪戯が成功したように微笑むノイマイヤー侯爵夫人に、私とライナルト様は顔を見合わせて――もしかして、それが狙いだったのでは……? と考えてしまった。侯爵夫人は忙しい方なのに、わざわざ時間を作ってくださったことには感謝しているけれど……。

「……少し、歩くか?」
「そ、そうですね!」

 残された私とライナルト様は、ライナルト様に屋敷の中を案内してもらった。挨拶に来た時には応接間で話したから……。まだ、夢なんじゃないかって思っているけれど……実感がわかない。本当に。

「……大きなお屋敷ですね」
「タウンハウスだからそうでもない。領地の屋敷のほうが大きい」
「……え」

 さ、さすが侯爵家……。

「シーズン中だからタウンハウスに居たが……、そう考えると君のプロポーズは丁度良いタイミングだった」
「忘れてくださいっ」

 今でも謎なのよ、お友達になってくださいが夫になってくださいになったことが! 思い出すだけで顔から火が出そうなほど恥ずかしい。
 ライナルト様はその時のことを思い出し、肩を震わせていた。……ライナルト様、案外笑うわよね。……うん、彼のことを知っていくのは嬉しい。
 陰からこっそり、というわけではないけれど(なにしろ会わない)、殿下の護衛として働いているところを見ていた。

「レオノーレ、こちらへ」
「は、はいっ」

 名前で呼ばれてどきりとした。ドキドキと心臓の鼓動が早くなる。婚約を認められた瞬間から、私のことを名前で呼ぶようになった。婚約者に対して親しみを込めて、と言われては……。

「……手を」
「は、はいっ」

 すっと手を差し出されて、私は手を重ねた。分厚いライナルト様の手。剣を握って出来たタコが潰れて、厚くなる。それが積み重なったライナルト様の手。きゅっと握られて、さらに胸がドキドキする。

「たぶん、この屋敷の中で一番君が気に入る場所だ」
「え?」

 ライナルト様にそう言われて、私は首を傾げた。
 彼が案内してくれたのは――薬草畑だった。

「こ、これは……!」
「タウンハウスでも作っているんだ。ノイマイヤーの特産品でもある」
「素晴らしいですわ! ああ、なんて立派な薬草……!」
「……やっぱり喜んだ」

 質のいい薬を作るには、質のいい薬草を見極める必要がある。こんなに質のいい薬草を栽培出来るなんて……! さすがはノイマイヤー侯爵家! うちでも栽培しているけれど、中々こんなに良い薬草は作れない……。

「結婚したら、ここの薬草は好きに使っていい」
「えっ!?」
「領地でも作っているし、ここのはほんの一部だからな」

 ……こ、これでほんの一部……。……なんかもう、さすがとしか言えない……。

「……そんなことを言って、私がこの薬草を悪用したらどうするんですか」
「君はそんなことしないだろう?」

 当たり前のように言われて驚いた。私が目を瞬かせていると、ライナルト様は「気に入ったか?」と尋ねてきたので、私は満面の笑みを浮かべて、

「もちろん!」

 と大きな声で返事をした。
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