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3話

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「……実は私、ライナルト様が背中の傷を負う場面を見たことがあるのです」
「……それは、怖い思いをさせたな」

 ふるふると首を横に振る。確かに驚いたし、血を流しながら戦う姿は恐ろしかった。……ライナルト様が死んじゃうんじゃないかって。彼は自分の命よりも殿下の命を優先する。わかっている、それが護衛の仕事だもの。

「……護衛の仕事だとわかっています。ただ、あなたを心配する人も居るのだと、知って欲しくて……。いつか、お伝えできれば良いなと思っておりました」
「……見守ってくれていたのか」
「私に出来ることなんて限られていますから」

 苦笑を浮かべてそういうと、ライナルト様は意外そうに私を見た。ただ見守るだけなんて、誰にでも出来ることだけど……。

「……もしや、騎士団に傷薬を差し入れたのは……」
「すみません、私です……」

 ライナルト様が怪我をした時に、騎士団にこっそり差し入れしていたのだ。男爵令嬢の私が唯一出来ることをやっていた……つもりなのだけれど、ライナルト様は小さく笑った。……レアだ! ライナルト様の笑顔!

「ずっと疑問だったんだ。俺が怪我をした時や寝込んだ時に薬が差し出されるのが」

 街でライナルト様の噂を聞いた時に、毎回差し入れしたから……。

「そうか、君だったのか。ありがとう」
「……あの、こう言ってはなんですが、使われたのですか……?」

 ライナルト様はこくりとうなずいた。

「差し出されていたのはクラウノヴィッツの薬だったからな。あそこの薬は品質が良いから、よく効くんだ」

 お父様! うちの薬は品質が良いと評価されました!

「そういえば名前を聞いていなかった。名は?」
「レオノーレ・テレーゼ・クラウノヴィッツと申します」
「ああ、クラウノヴィッツ男爵令嬢だったのか」

 そしてうちの爵位まで知っていらっしゃる!

「クラウノヴィッツの薬は騎士団でもよく使っているからな。いつも助かっている」
「い、いいえっ、そんなっ! 役立っているのならなによりです!」

 柔らかい口調を聞いて、私の胸がドキドキと高鳴る。低めの声が耳に届いて、なんだか落ち着かない。
 それにしても騎士団で使われていたとは……。

「騎士団では怪我が絶えないからな。薬を使い比べていたんだ。その中で、クラウノヴィッツの薬が一番よく効いた」
「そうだったんですね……!」

 うちがどうして潰れないのか謎だったけど、騎士団からの注文を受けていたからか……。とは言え、そんなに数は出来ないのがネックではあるのだけど……。
 ……ライナルト様の喋り方って、あまり怖くない。優しい声色だし、どうしてみんなにあんなに恐れられているのかが不思議だわ。

「……レオノーレ嬢」
「は、はいっ」
「俺のことを心配してくれてありがとう」

 きゅん、と胸が締め付けられそう。私の知らないライナルト様の表情が……私に向けられている。
 そのことにどうしようもなくときめいてしまう。
 私、本当にライナルト様のことが好きなのね……と改めて思った。
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