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王太子殿下が主催するこのパーティーで、私はとある人をひっそりと眺めていた。ああ、今日も格好いい……。滅多に会える方ではないから、今日はしっかりとこの眼に焼き付けて帰らなきゃ。
私、レオノーレ・テレーゼ・クラウノヴィッツ。男爵家の令嬢だ。王太子殿下はなにを思ったのか、男爵令嬢の私にまで招待状を渡して下さった。そんな王太子殿下は婚約者とともにダンスを踊っている。
私? 私はもちろん壁の花と化している。知り合いもいないし、誘ってくれる男性もいないしね。それでも良いの。王太子殿下たちのダンスはとても優雅で見応えがあるし、殿下を守るために配置されている護衛の方々も、殿下の周りで令嬢たちと踊っている。……その護衛の一人、ライナルト様。私がひっそりと想っている方。彼が踊っている姿をこの眼にしっかりと! 焼き付ける! それが今日の私の使命!
ダンスが終わり、それぞれ散っていくのを眺めながら、私はほぅ、と小さく息を吐いた。
――あれ、なんで王太子殿下がこっちに来るの……?
王太子のヴェルナー殿下。その隣には婚約者のナターリエ公爵令嬢。公爵令嬢は扇子を広げて口元を隠している。
「すまないね、レディ。僕には愛しい婚約者がいるんだ。そんなに見つめられても、君とデートすることすら出来ないんだ」
「え? 私、あなたのことを見つめていませんけれど……?」
「なにを言っているんだい、さっきから熱い視線をむけていたじゃないかっ」
「あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です」
驚愕の表情を浮かべるヴェルナー殿下。ナターリエ公爵令嬢が、くすくすと笑い声をあげた。
「ほら、殿下。わたくしの言った通りだったではありませんか」
「……だってとても熱い視線だったんだよ。それならば、君は一体誰を見つめていたというのだ!」
……なにこれ、答えなきゃいけないの? え、バレバレになっちゃうの? 戸惑っていると、ヴェルナー殿下が「ほら、答えられないのなら、僕だろう!」と胸を張った。胸を張るほどのことでもないと思う。
そんな殿下を、ライナルト様が面倒くさそうにみていた。ああ、その表情も素敵。
「……やっぱり今日も格好いいわ、ライナルト様」
うっとりと呟いてしまった。私たちの会話を盗み聞きするためか、しんと静まり返っていた会場内に、私の声は響いた。
見つめるだけで、恋人になりたいなんて身分違いなことを思ったりはしていない。だからこそ、見つめることだけは許して欲しい。
「ら、ライナルト? ライナルトを見つめていたのか?」
「はい。殿下の近くにいらっしゃったので……。あ、だから殿下は誤解なさったのですね。ご安心くださいませ、殿下とナターリエ様のことを応援しております」
「あ、ああ……それはありがとう……? いや、そうではなく。ライナルトをなぜそんなに熱い視線で見つめていたのだ? あいつは格好いい、と言うほど格好いい男ではないだろう?」
「……お言葉ですが、殿下。ライナルト様ほど格好いい男性はいませんわ」
きっぱりとそう言い放つと、殿下は気分を害したかのように眉を顰めた。……でも、いくら殿下でもライナルト様のことを悪く言うのは我慢ならない!
「……いや、だってあいつの顔は……」
「殿下。恋する乙女に愚問ですわよ」
ナターリエ様がそんなことを口にする。やだ、恋する乙女だなんて! 間違ってはいないけれど!
「――俺のことが怖くないのか?」
ライナルト様に話し掛けられちゃった! これはもしやライナルト様とお話しするチャンスなのでは!?
よーし、せめてお友達になれるようにがんばろう!
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「あ、すみません。私が見ていたのはあなたではなく、別の方です」
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……なにこれ、答えなきゃいけないの? え、バレバレになっちゃうの? 戸惑っていると、ヴェルナー殿下が「ほら、答えられないのなら、僕だろう!」と胸を張った。胸を張るほどのことでもないと思う。
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「……やっぱり今日も格好いいわ、ライナルト様」
うっとりと呟いてしまった。私たちの会話を盗み聞きするためか、しんと静まり返っていた会場内に、私の声は響いた。
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