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3章
3章プロローグ
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魔力のほとんどを使い切った私と、ずっとマザー・シャドウに身体を乗っ取られていたジェリーは、二週間ほど休んでいるように、と保健室の先生から伝えられた。
二週間という短くはない期間、アカデミーでは大変だろうとアンダーソン邸に帰ることを決めた。ジェリーも連れて。
次期アンダーソン家当主であるアルフレッド・アンダーソン。私は『アル兄様』とお呼びしている。
アル兄様は私たちの事情を先にお母様たちに話していたようで、屋敷に帰るとみんなで出迎えてくれた。
みんな、ジェリーにも親切に接してくれた。私とジェリーはまるで姉妹のように過ごして……いいえ、血の繋がりは半分とはいえ、彼女も私の妹。
だから、そう。仲良くなるのに、時間はかからなかった。
ジェリーにファロン家のことは聞かれず、私も話さず。ただ魔力と体力が回復するまでのんびりと過ごす日々。
だけど、ひとつだけ――彼女に確認しないといけないことがある。
「……呪いの書?」
「そう。マザー・シャドウが持っていたから、ジェリーが持っているとおもうのだけど……」
「それって、このくらいの分厚さの本ですか?」
ジェリーのジェスチャーに私はうなずく。
「思い当たる本があります」
「……そっか。あとで燃やさない? あの本」
私に火傷痕を残した本。あの本がなんなのか、私にはわからない。だけど、あれは存在しちゃだめな気がした。
二週間の休みのうち、週末になるとクラスメイトたちや友人がお見舞いに来てくれた。たくさん話ができて、今が休養中ということを忘れちゃいそうだったわ。
二年前からの友人であるジーン・マクラグレンとイヴォン、アカデミーで友人になったレーベルク王国からの留学生、ディアことクラウディア。
そして、シー兄様ことアンダーソン家の長男、シリル・アンダーソンと、義従兄であるヴィニー殿下ことこの国の第三王子であるヴィンセント殿下がお見舞いに来てくれて、二週間ずっと優しさに包まれていた。
二週間しっかりと身体を休ませて、もとの魔力量になったことを確認してから、アカデミーに戻る許可がおり、ジェリーと一緒に戻ることに。
「……なにからなにまで、お世話になってしまって申し訳ありません」
「いいのよ。また遊びにきてちょうだいね」
お母様からの言葉に、ジェリーは頬を赤らめて、こくりとうなずいた。
ジェリーとともにアカデミーに戻ると、私たちに気付いた人たちがじっと見つめてきた。
その視線に、ジェリーは俯いてしまう。
私はそっと彼女の手を取って歩き出す。弾かれたように顔を上げたジェリー。安心させるように微笑みを見せると、ほっと安堵したように息を吐いた。
ジェリーは私の隣に並び、歩幅を合わせて歩き始める。
「エリザベス様。……ありがとうございます」
「どういたしまして」
……でも、こうして並んで歩いていると、私のほうが妹のようね。だって、ジェリーのほうが背が高いから。
なんとなく複雑な気持ちになりつつ、あのとき聞こえてきた声について考える。
あれはいったい、誰の声だったのだろう……?
ソルとルーナに尋ねようとしたけれど、精霊たちはなにも話してくれなさそうだったのでやめた。
ジェリーも一緒だったしね。
それでも、マザー・シャドウの脅威がなくなったと考えれば、気分は良かった。
よし、がんばって建国祭の舞姫の役目をしっかりと果たそう。建国祭までまだ時間はあるから、そのあいだにしっかりとダンスを覚えて、衣装を合わせて……いろいろなことをやらなきゃね。
ジェリーは建国祭の前に、ブライト商会に一度戻って家族で話し合うと教えてくれた。
家族で話し合って、またやり直したいと決意を固めたジェリーの表情は、とても清々しく見えたことを覚えている。
がんばれ、と心の中で応援して、私たちは日常へと戻る。友人たちと平和に暮らす日常に。
そんな私のことを見ていた人がいたことに、そのときの私は気付いていなかった。
そして、その人が一波乱を呼ぶことも――……
「……やっと見つけた、めーちゃん」
ぽつりと呟かれた歓喜の言葉は、私の耳には届かなかった。
二週間という短くはない期間、アカデミーでは大変だろうとアンダーソン邸に帰ることを決めた。ジェリーも連れて。
次期アンダーソン家当主であるアルフレッド・アンダーソン。私は『アル兄様』とお呼びしている。
アル兄様は私たちの事情を先にお母様たちに話していたようで、屋敷に帰るとみんなで出迎えてくれた。
みんな、ジェリーにも親切に接してくれた。私とジェリーはまるで姉妹のように過ごして……いいえ、血の繋がりは半分とはいえ、彼女も私の妹。
だから、そう。仲良くなるのに、時間はかからなかった。
ジェリーにファロン家のことは聞かれず、私も話さず。ただ魔力と体力が回復するまでのんびりと過ごす日々。
だけど、ひとつだけ――彼女に確認しないといけないことがある。
「……呪いの書?」
「そう。マザー・シャドウが持っていたから、ジェリーが持っているとおもうのだけど……」
「それって、このくらいの分厚さの本ですか?」
ジェリーのジェスチャーに私はうなずく。
「思い当たる本があります」
「……そっか。あとで燃やさない? あの本」
私に火傷痕を残した本。あの本がなんなのか、私にはわからない。だけど、あれは存在しちゃだめな気がした。
二週間の休みのうち、週末になるとクラスメイトたちや友人がお見舞いに来てくれた。たくさん話ができて、今が休養中ということを忘れちゃいそうだったわ。
二年前からの友人であるジーン・マクラグレンとイヴォン、アカデミーで友人になったレーベルク王国からの留学生、ディアことクラウディア。
そして、シー兄様ことアンダーソン家の長男、シリル・アンダーソンと、義従兄であるヴィニー殿下ことこの国の第三王子であるヴィンセント殿下がお見舞いに来てくれて、二週間ずっと優しさに包まれていた。
二週間しっかりと身体を休ませて、もとの魔力量になったことを確認してから、アカデミーに戻る許可がおり、ジェリーと一緒に戻ることに。
「……なにからなにまで、お世話になってしまって申し訳ありません」
「いいのよ。また遊びにきてちょうだいね」
お母様からの言葉に、ジェリーは頬を赤らめて、こくりとうなずいた。
ジェリーとともにアカデミーに戻ると、私たちに気付いた人たちがじっと見つめてきた。
その視線に、ジェリーは俯いてしまう。
私はそっと彼女の手を取って歩き出す。弾かれたように顔を上げたジェリー。安心させるように微笑みを見せると、ほっと安堵したように息を吐いた。
ジェリーは私の隣に並び、歩幅を合わせて歩き始める。
「エリザベス様。……ありがとうございます」
「どういたしまして」
……でも、こうして並んで歩いていると、私のほうが妹のようね。だって、ジェリーのほうが背が高いから。
なんとなく複雑な気持ちになりつつ、あのとき聞こえてきた声について考える。
あれはいったい、誰の声だったのだろう……?
ソルとルーナに尋ねようとしたけれど、精霊たちはなにも話してくれなさそうだったのでやめた。
ジェリーも一緒だったしね。
それでも、マザー・シャドウの脅威がなくなったと考えれば、気分は良かった。
よし、がんばって建国祭の舞姫の役目をしっかりと果たそう。建国祭までまだ時間はあるから、そのあいだにしっかりとダンスを覚えて、衣装を合わせて……いろいろなことをやらなきゃね。
ジェリーは建国祭の前に、ブライト商会に一度戻って家族で話し合うと教えてくれた。
家族で話し合って、またやり直したいと決意を固めたジェリーの表情は、とても清々しく見えたことを覚えている。
がんばれ、と心の中で応援して、私たちは日常へと戻る。友人たちと平和に暮らす日常に。
そんな私のことを見ていた人がいたことに、そのときの私は気付いていなかった。
そして、その人が一波乱を呼ぶことも――……
「……やっと見つけた、めーちゃん」
ぽつりと呟かれた歓喜の言葉は、私の耳には届かなかった。
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