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2巻
2-2
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「はい、できた」
「うーん、素早すぎてなにがなんだか……」
「本当にね」
「慣れよ、慣れ」
くすくすと笑うジーンに、私たちも笑みを浮かべる。そして、多少化粧をしてからパーティー会場へ向かう。化粧はイヴォンにしてもらった。ヴィンセント殿下から頂いた、パープルスピネルとパールのペンダントも身につけている。
「ねぇ、ジーン。赤い宝石が使われているかんざしって、まだあるかしら?」
会場に足を進めながら、ジーンに尋ねた。
「気に入った?」
「うん。だから、買わせてもらおうと思って」
「良かったら、それを差し上げるわ。そのかんざしを見た瞬間、あなたに一番似合いそうだと思ったの」
「え、でも……」
「良いの良いの。友人からのプレゼントだと思って、受け取って?」
彼女はにこりと微笑んだ。私はなにも言えなくなってしまい、本当にもらっていいのかしら……? と少し不安になってジーンを見つめる。すると、くすりとイヴォンが笑い声を上げ、ぽんと肩に手を置く。
「もらっておきなさいな、アンダーソン家の令嬢が使っているのを見れば、きっと誰も彼もが興味を持つわ。宣伝料みたいなものよ」
「そういうこと!」
「……そういうことなら、遠慮なく」
公爵令嬢として過ごした時間はまだたったの二年。だけど、その二年のあいだにいろいろなことを経験したわ。
お茶会で仲良くなろうと近付いてくる人は多かったけど、ほとんどの令嬢に下心を感じ、なかにはあからさまに私を利用しようとする人たちもいたから、そういう令嬢主催のお茶会は二度と行かないという選択をした。逆に自分がお茶会に招待する場合の人選にも悩んで、最終的に家族に助言を求めた。マリアお母様もアル兄様も、快く相談に乗ってくれてとても助かったわ。
アル兄様といえば、兄様がアカデミーに入学してから直接お会いする機会はめっきりなくなってしまった。だけど、代わりに始めた文通は、私が入学するまで一度も途切れたことがない。手紙にはいつも、アカデミーの生活を楽しんでいる様子と、家族を恋しく思う気持ちが綴られていた。
アル兄様と同期でアカデミーに入学したヴィンセント殿下とも文通をしていた。彼からの手紙にはアカデミーの生活とアル兄様の様子、魔術のことなどが綴られていた。殿下から見るアル兄様の様子が、とても新鮮で楽しかったことを思い出し、小さく笑みを浮かべる。
「リザ、どうかした?」
「ううん、ちょっと思い出しちゃって」
パーティー会場前につくと、階段の前で女性に囲まれている人たちが見えた。……なんだか、見覚えがあるような……と思ったら、囲まれていたのはアル兄様とヴィンセント殿下のようだ。私たちに気付くと、大きく手を振った。……心なしか、助けてくれといわれているような気がする。
私たちは顔を見合わせ、それから彼らに近付いた。
「リザ! 入学おめでとう!」
わざとらしく大きな声で声をかけてきたアル兄様に、彼を囲んでいた女性たちがピタリと動きを止めて、みんな一斉にこちらを見た。ぎらぎらとした視線を受けて、迫力があるなぁと感じたけれど、大丈夫。私はもう、誰かに怯えることはしない。
「ありがとうございます、アル兄様。今、お時間よろしいですか? 私の友人を紹介いたしますわ」
「ああ、手紙で読んで知っていたけど、直接紹介してくれるなんてリザは優しいな! それじゃあ、レディたち、僕らはこれで!」
にこやかな微笑みを浮かべて軽く手を上げるアル兄様に、女性たちは「えー!」と不満そうに声を合唱させる。アル兄様、とても人気者なのねぇ。そして、それはヴィンセント殿下もそうみたい。だけど、なんだか……私と会っている時とは全然、表情が違うわ。にこりともしていない。そう考えていると、彼は私に近付いてきた。どうしたんだろう?
「久しぶりだね、エリザベス嬢。ぼくの贈ったペンダント、使ってくれてありがとう」
――あ、わかりやすい牽制だ。さっきまで無表情だったのに、私に対しては笑顔だし、声も甘く感じる。少しだけ考えて、彼の言葉に乗ることにした。
「ごきげんよう、ヴィンセント殿下。ええ、肌身離さず。殿下も私が贈ったプレゼントを身につけてくださっているのですね、ありがとうございます」
にこやかに彼の首元に視線を向ける。きらりときらめくゴールデンベリルのペンダント。間違いなく、私が贈ったアミュレットだ。
「ぼくも肌身離さず。このペンダントをしていると調子が良いんだ」
それは良かった。女性たちがなにかをいいたそうだったけど、公爵家の一員である私と、王族のヴィンセント殿下との会話に割り込むことはできないみたい。……養女ということは広く知られているだろうけどね。
「こんなところに人が集まっていては、迷惑だね。エリザベス嬢、ぼくにもきみの友人を紹介してくれる?」
「もちろんですわ」
ヴィンセント殿下はすっと手を差し出す。どうやら、エスコートをしてくれるみたい。私はその手を取って階段を上がった。ここで彼の誘いを断るのは不自然だろうし、いやではなかったから。
パーティー会場に入る前に、私たちは足を止める。ジーンはアル兄様、イヴォンは……見覚えのある人にエスコートされてきた。誰だったかしら? 記憶を巡らせたけれど思い出せない。
私の視線に気付いたのか、イヴォンをエスコートした男性はにこりと微笑んだ。やっぱり、どこかで見たことがある。
「お久しぶりです、エリザベス嬢」
やっぱり知り合いだった! 私が「ごきげんよう」と挨拶をすると、アル兄様が教えてくれた。
「覚えてる? ハリスンだよ」
思わず目を丸くしてしまった。だって、あまりにも背が伸びていたから!
「ハリスンと知り合いだったの?」
「え、ええ。二年前に神殿でお会いしましたよね」
「そのあと、シリル様の誕生日パーティーで本当に『紹介』だけされたね」
どこか遠い目をするハリスンさんに、私は眉を下げた。二年前のシー兄様の誕生日パーティー。私が正式にアンダーソン家の養女として公表された日。次から次へと紹介された貴族の中に、確かに彼もいた。ただ、あの時は緊張していて、あまり覚えていないのよね。ソフィアさんとの会話は、マザー・シャドウや彼女の母国であるカナリーン王国に関する話につながったから、覚えているのだけど。
マザー・シャドウについて思い出すと、どうしても気分が沈む。結局私も、ファロン家の人たちも、マザー・シャドウの毒牙にかかっていたのよね。私が顔に火傷を負ったことも、宝石眼になったことも、彼女の策略だ。知らなかったとはいえ、彼女に逃げ道を作ってしまったことが、悔しい。
――でも、今はそれよりも大切なことがある。
「ええと、アル兄様、ヴィンセント殿下。こちら、私の友人のジーン・マクラグレンとイヴォンです」
「お噂はかねがね。会えて光栄だよ、マクラグレン侯爵令嬢」
「私もですわ、アルフレッド卿。エリザベス様とは親しくさせて頂いています」
「私は?」
「きみとは何度も顔を合わせているだろう」
イヴォンが「だよねー」と明るく笑った。……そっか、イヴォンとアル兄様たちは同期生だから、親しくもなるのね。そう考えていると、ハリスンさんがイヴォンの腰に手を回した。
彼女たちの様子を見ると、イヴォンが愛しそうにハリスンさんへ微笑みを浮かべていた。彼もまた、同様に。え、もしかして……もしかするの!?
「改めて……ハリスン・フロスト。伯爵家の次男」
「そして、私の騎士」
想像していた言葉ではなかったけれど、騎士? と首を傾げる。するとイヴォンが口元を隠しながらくすくすと笑う。
「ごっこ遊びのようなものよ。淑女崇拝的な、ね」
「……きみは立派なレディだよ、イヴォン」
「ありがとう、ハリスン」
まるで物語のお姫様と騎士を見ているような気持ちになり、幸せそうに微笑み合う二人を眺めた。
「アカデミーではこんなごっこ遊びをしている人たちも多いよ」
「そうなんですか?」
ヴィンセント殿下が首をこくりと動かした。ごっこ遊び、にしてはハリスンさんのイヴォンに対する視線は熱烈だと思うし、彼女も彼のことを愛しそうに見ているし……よくわからない。
私はジーンに視線を向けた。彼女は羨ましそうにイヴォンを見ている。やっぱり騎士に守られることに憧れるのかしら……?
そう思考を巡らせていたら、鐘の音が響いた。
「……あ、そろそろ始まるね。それじゃあ、会場に入ろうか」
「はい」
ヴィンセント殿下が私の隣に立つ。どうやら会場に入る時もエスコートをしてくれるみたい。ハリスンさんとイヴォン、アル兄様とジーン、そして私たちの順で会場の中に足を進める。入学祝いのパーティーだから、パートナーがいなくても入っていいみたいだけど、私たちのように男女の組み合わせで入場する人たちが多く、みんな期待に胸をふくらませた表情で歩いている。
――だけど、一人で会場に入り、その場にいる全員の目を奪う人がいた。
真っ赤なドレスに身を包み、真っ赤な口紅をつけた銀髪黄金目の少女――そう、ジェリー・ブライトだ。
その血のように赤い唇とドレスを見た時、ついヴィンセント殿下と繋いだ手を強めてしまい、彼に小声で問われる。
「……大丈夫?」
ヴィンセント殿下を見上げ、そして、こくりと首肯した。
「……はい、大丈夫です。すみません」
「謝らないで。いつだって頼って構わないのだから」
「……ありがとうございます」
安心させるように微笑む姿に、胸の奥が熱くなった。二年前の私を知っている彼の存在が、こんなにも心強いものだったのかと一度深呼吸をしてから、明るい笑顔を見せる。彼女が私になにかしたわけではないのだし、気にしないようにしないとね。
今は、この入学祝いパーティーを楽しもう!
パーティー会場はとてもきらびやかだった。教師たちも正装をしていて、会話を楽しんでいるように見える。アカデミーの学園長の挨拶から始まり(入学式で長々と話したからと短めだった)、学生自治会の会長の挨拶や、なぜかシー兄様が挨拶をしていて……待って、どうしてシー兄様がここに? びっくりして目を丸くしていると、「驚いた?」とヴィンセント殿下が悪戯に成功したように口角を上げていた。
挨拶が終わり、本格的にパーティーが始まる。立食式のパーティーなので、いろいろな料理がずらりと並んでいた。シー兄様が私に軽く手を振りながら近付いてくる。
「リザ、入学おめでとう!」
「ありがとうございます、シー兄様。……あの、なぜシー兄様がアカデミーに?」
「アカデミー周辺の警備を任されているんだ。というか、リザが入学する前から異動願いを出していてね、今年ようやく受理されたんだ! うちの可愛い弟と妹が通うアカデミーだからさ! 本当はアルの入学と合わせたかったんだけどね」
「アル兄様の入学と?」
シー兄様はアル兄様の肩をガシッと掴んで、にこやかにこう言った。――ただし、小声で。
「アンダーソン家の跡取りだからね、アルは」
「シリル兄様っ!」
「……え? アル兄様が跡取り……?」
てっきり長男であるシー兄様が、アンダーソン公爵家の跡取りだと思っていた。アル兄様はバツが悪そうに私から顔を逸らしてしまう。
「正式な発表はまだだけどね。アルが卒業する頃かな? ……巫子の血を濃く継いでいるのはアルだから、そんなに不思議なことではないだろう?」
ぽんぽんとアル兄様の肩を叩くシー兄様に、ぱちくりと目を瞬かせることしかできなかった。少ししてハッとした私は、顔をアル兄様に向けて、彼の手をガシッと握る。
「リザ?」
驚いたように私を見るアル兄様に、自分の思いを紡ぐ。
「応援します! 私にできることは微力なことでしょうけれども……!」
「ありがとう……?」
なぜ疑問系なのでしょうか、アル兄様。
そうして会話を交わすうちに音楽が変わり、ダンスの時間になったようだ。ヴィンセント殿下が私にすっと手を差し出す。
「レディ、一曲お相手願えますか?」
「喜んで」
シー兄様はもう一度ぽんっとアル兄様の肩を叩き、私とヴィンセント殿下に近付いた。
「今日の髪型、とてもよく似合っているよ」
「ありがとうございます、シー兄様」
会場に入った時と同じパートナーで、ダンスを踊る。ワルツは体に叩きこむくらい、何度も踊った。二年でだいぶ上達したと思いたい。
「……本当に、よく似合っているよ、その髪型」
「ふふっ、ありがとうございます。ところで、この身長差、踊りにくくありませんか……?」
「平気だよ」
ヴィンセント殿下にも髪型を褒めてもらった。そして、結構な身長差があることに気付いて問いかける。もっと伸びないかしら、私の身長。ヴィンセント殿下は笑顔で踊ってくれているけれど、きっと踊りにくいと思うの。アル兄様もヴィンセント殿下もハリスンさんも……身長がぐんと伸びて羨ましい。
「またきみと踊れて嬉しいよ」
「お世辞でも嬉しいですわ」
「……お世辞じゃないよ」
ふわっと私の体が浮き上がる。ドレスがふわりと揺れて、それを意識するようにヴィンセント殿下がターンした。一瞬、全員の動きが止まったような錯覚を覚える。とん、と床に私を下ろす。ふふっと思わず笑みがこぼれた。だって、このダンス……シー兄様の誕生日パーティーと同じなのだもの。
「緊張は解れたようだね」
「ええ。まだまだ踊り足りないくらいですわ」
「うん、良い笑顔」
ヴィンセント殿下は不思議な人だなって、いつも思う。こんなにも私に見せてくれる笑顔はまぶしいのに、魔術に夢中になると目を輝かせてまるで幼い子のように見える。でも、その姿を見るのはいやじゃなかった。
「ヴィー、交代」
「そうだね」
「リザ、僕とも踊ってくれる?」
アル兄様と踊るのは久しぶりだったので「もちろん!」と元気よく答えた。互いに視線を交わして、小さく笑い合う。穏やかな時間だ。
「アル兄様が、跡継ぎだったのですね」
「巫子の血の関係でね。シリル兄様より、僕のほうが巫子の血が濃いから」
「シー兄様は、その……」
「元々、自分が跡継ぎになるつもりはなかったみたい。ただ、エドが生まれたあとに、三人の中で一番僕が巫子の血を濃く継いでいるってことで、自分からアンダーソン家のサポートに回るって言っていたらしいよ」
もしかしたら、アル兄様が生まれた時に、どのくらいの差があるのかを感じ取ったのかもしれない。だからこそ、自分のできることをやろうと考え、強くなろうと……?
「お母様も、僕が跡継ぎだと思っていたみたいだし」
「お母様も?」
「うん。だからこそ、絶対にアカデミーに入れたかったんだと思うよ」
「えっと、それはなぜ……?」
アル兄様がくすりと口角を上げて、それからボソッと呟いた。
「友達とお嫁さん探し」
「えっ?」
それはあまりにも意外な言葉で、思わず聞き返してしまった。そんな私に、アル兄様は楽しそうにターンをしながら、言葉を続ける。
「こういう学園で出会えた友達は、かけがえのないものなんだって。それと、婚約者も探さないといけないからね。在学中に結婚する人たちもいるらしいよ」
「そうなんですか?」
「結婚した令嬢は家に入るから、単位を取って早急に卒業しないといけないんだって。だから、在学中に結婚すると忙しいみたい」
アカデミーで出会った人と婚約、そのあと結婚……? 在学中にそんなことが可能だとは思わなかった。
「もちろん家の方針でも違うらしいよ。じっくりと何年もかけていいって家もあるみたいだし」
「様々なんですね……」
感心したように呟くと、アル兄様が小さく頷く。……それにしても、こんなふうに話しながら踊れるようになるとは。ダンスの腕が上達したのだと実感できて、とても嬉しいわ。その後、シー兄様とハリスンさんにも誘われたので一緒に踊った。護衛として一緒にアカデミーに来たカインは、その姿を見守ってくれていたみたい。
さすがに連続で四曲も踊ったから、疲れちゃった。喉が渇いたから飲み物を頂こうとウエイターに近付こうとすると、すぐにグラスを用意してくれた。ひょこりとソルとルーナが現れ、飲み物を調べ「大丈夫」と教えてくれたので、そのグラスを受け取る。
「ありがとう」
「ごゆっくりお楽しみください」
お礼を伝えると、ウエイターは軽く頭を下げて戻る。飲み物を求める令嬢や令息を見つけて、すぐに持って来てくれたみたい。……あれ、でも考えてみれば、アンダーソン家に住んでからウエイターやウエイトレスに声をかける前に、さっと来てくれることがほとんどだ。待たされるのは、お忍びで遊びにいった時くらい。
とりあえず喉が渇いたから受け取った飲み物を口にする。甘酸っぱいレモネードは、ダンス後にぴったりな飲み物だと思う。
「どこに行く?」
「バルコニー。風に当たりたくて」
私が歩き出すと、ソルとルーナもついてきた。バルコニーの扉を開けて、外の空気を思い切り吸い込む。四曲も連続で踊れるようになったなんて、二年前には考えられなかったことよね。
「キラキラ~」
「そうね。会場はとってもきらびやか。反対に、バルコニーは静かね」
「落ち着きやすい場所だから良いのでは?」
「ふふ、確かに」
バルコニーからパーティー会場を見つめる。いろんな人たちが踊っている姿を見るのは好きだ。踊っている人たちの身長差を眺めて、やはりあまり身長差がないほうが踊りやすそうだな、と感じる。
さっきまであの中に自分がいたことが不思議なくらい、きらびやかな世界。そんな世界の中に私がいるなんて……と考えていると、ソルとルーナが私を見ていることに気付いて「どうしたの?」と声をかける。
「エリザベスは楽しんでる?」
「ええ、もちろん。アカデミーってどんなところなのかよく知らなかったけれど、先に入学したみんなと文通をして、想像を膨らませていたの。想像の何倍も素敵なところだなぁって、入学初日から思っているわ」
キラキラと輝く世界。色が見えるようになった時も世界が広がったと思った。……二年前まで、私の世界は暗くて狭い場所だと思い込んでいた。それが今ではこんなにも明るく、輝かしい場所に立てる。そのことがとても嬉しい。
今の私なら、いろいろなことに向き合えそうだと思った。
「家族にも友人にも恵まれて、私は果報者だとしみじみ感じるもの……」
「まだまだ」
「これから」
「もっともっと」
「幸せにならなくちゃ」
精霊たちが交互に喋る。精霊たちと一緒に眠るようになってから、私の体はすこぶる健康だ。今までは体内に魔力をぎゅうぎゅうと詰め込んでいたみたいで、アカデミーに入る前に二年分の魔力がどのくらい溜まったのかを聞いたら、アンダーソン邸が三つは入るくらいと教えてくれた。とても広いお屋敷だから、そのくらいの魔力がソルとルーナに食べられていると思うと、なんだか不思議な気がしたわ。
「……お邪魔だったかな?」
一通り踊り終えたのか、ヴィンセント殿下も飲み物を手にしてバルコニーに足を運んだ。私は「一緒に休憩しましょう」と彼を招く。殿下はほっとしたような笑みを見せ、バルコニーの扉を閉めてからこちらに近付き隣に立つ。
「改めて、入学おめでとう」
「ありがとうございます」
乾杯、と目元までグラスを持ち上げる。一口飲んで、それからゆっくりと息を吐いた。
「運動後のレモネードって美味しいよね」
「本当に。……殿下はレモネードがお好きなのですか?」
「こういう運動後ならね。すっぱすぎるのは苦手なんだ」
内緒だよ、と口元で人差し指を立てる彼を見て、扇子で口元を隠してくすくすと笑い声を上げた。ヴィンセント殿下はすっと目元を細めると、会場に視線を移す。つられるように会場に視線を向けると、真っ赤なドレスを着た女性……ジェリーが誰かと踊っているのが見える。
「……そっくりだね」
「え?」
「ジュリー・ファロンによく似ている。ただ、なんとなく違和感があるんだ」
「……違和感、ですか?」
「うん。なんだろう、混ざり合わないような、なにかが。……言葉って難しいな、うまく説明できなくてごめん」
眉を下げて頬を人差し指でかく姿を見て、「いえ、そんな」と慌てて手を横に振った。
会場に視線を戻すと、彼女の真っ赤なドレスに目を奪われる。やはり目立つなぁ。でも、彼女よりも気になることがある。
「あの、ヴィンセント殿下は、アカデミーでどんなことを学んでいますか?」
「魔術がほとんどかな。クリフ様のおかげで、魔力と巫子の力はそれなりにコントロールできるようになったし、自分の力がどのくらい通用するのか試してみたい。あ、あと剣術も磨いているよ」
「剣術も?」
「うん。もっと言えば体術も。最終的には剣よりも拳のほうが頼りになるかもしれないし」
片目を閉じ茶目っ気たっぷりに笑う彼を見て、この二年間でいろいろなことがあったと感じた。
「――ぼくはね、この手でいろいろなことを掴み取りたいと思っているんだ。ぼくにできることを掴み取るつもり。アカデミー在学中に様々なことをやってみたいんだ」
「素敵ですわ、ヴィンセント殿下」
「ありがとう。前向きな気持ちになれたのは、きみたちアンダーソン一家のおかげだよ」
……お礼を伝えられるとは思わなくて、思わず目を瞬かせた。彼はすっと私の手を取ると手の甲に唇を落とす。その仕草があまりにも自然で、見惚れてしまった。
そっと、静かな動きで唇が離れる。こういうことが自然にできるのは、ヴィンセント殿下が王族だから? アル兄様やシー兄様が令嬢に対してこういうことをしている場面はあまり見たことがないから、心が落ち着かない。
「どうかした?」
「あ、いえ。なんでもありませんわ」
手袋をしているから直接触れたわけじゃない。触れたわけじゃないのに――どうして、こんなにも心臓の鼓動が早鐘を打つのかしら……?
「あと数ヶ月もすれば、今度は夜会をイメージした舞踏会があるよ」
「え、そうなのですか?」
「うん。アカデミーで練習できると思うと、ちょっと気が楽にならない?」
アンダーソン公爵家の養女になったことで、お茶会に招待されることが多くなったが、夜会には参加したことがない。そもそも、まだ参加できない。この国の法律では、成人した男女しか参加できないから。
「なるほど、社交界デビューの準備期間ともいえるのですね」
「アカデミーが主催だからお酒はないけどね。その代わり、ノンアルコールカクテルが多かったよ」
「ノンアルコールカクテル……? そういえば、殿下は誰をエスコートしたのですか?」
「誰も。二年間ウエイターをやっていたよ」
王族が、ウエイター? 目を瞬かせると、彼はこてんと小首を傾げて「そんなに驚くこと?」と聞いてきたので、何度も頷いた。だって、王族がウエイターって!
「それじゃあ、もう一つ教えてあげる。アルもウエイターをしていたよ」
「アル兄様も!?」
ウエイター姿のアル兄様とヴィンセント殿下を想像して、思わず顔を赤らめた。絶対に似合う。いや、アル兄様たちなら、どんな格好でも格好良く着こなすでしょうけど……ああ、この目で見てみたかった。
「ちなみに今年は……?」
「エリザベス嬢がいるから、エスコート役を申し込もうと思って」
「わ、私に?」
「そう。気が早いけど、ぼくにレディのエスコートをさせて頂けませんか?」
「よ、喜んでお受けします……」
やった、と小さく笑うヴィンセント殿下を見て、眉を下げて微笑んだ。
「あの、本当に私で良いのでしょうか?」
「もちろん。きみと一緒にいられるのが、一番楽しい」
優しい表情に、柔らかい口調でそう言われて、胸が熱くなる。私もヴィンセント殿下と魔術を通していろいろな話をしていたのが楽しかったから、そう言われてとても……とても、嬉しかったの。
「それと、ぼくの呼び方なんだけど……」
「ヴィンセント殿下?」
「うーん、素早すぎてなにがなんだか……」
「本当にね」
「慣れよ、慣れ」
くすくすと笑うジーンに、私たちも笑みを浮かべる。そして、多少化粧をしてからパーティー会場へ向かう。化粧はイヴォンにしてもらった。ヴィンセント殿下から頂いた、パープルスピネルとパールのペンダントも身につけている。
「ねぇ、ジーン。赤い宝石が使われているかんざしって、まだあるかしら?」
会場に足を進めながら、ジーンに尋ねた。
「気に入った?」
「うん。だから、買わせてもらおうと思って」
「良かったら、それを差し上げるわ。そのかんざしを見た瞬間、あなたに一番似合いそうだと思ったの」
「え、でも……」
「良いの良いの。友人からのプレゼントだと思って、受け取って?」
彼女はにこりと微笑んだ。私はなにも言えなくなってしまい、本当にもらっていいのかしら……? と少し不安になってジーンを見つめる。すると、くすりとイヴォンが笑い声を上げ、ぽんと肩に手を置く。
「もらっておきなさいな、アンダーソン家の令嬢が使っているのを見れば、きっと誰も彼もが興味を持つわ。宣伝料みたいなものよ」
「そういうこと!」
「……そういうことなら、遠慮なく」
公爵令嬢として過ごした時間はまだたったの二年。だけど、その二年のあいだにいろいろなことを経験したわ。
お茶会で仲良くなろうと近付いてくる人は多かったけど、ほとんどの令嬢に下心を感じ、なかにはあからさまに私を利用しようとする人たちもいたから、そういう令嬢主催のお茶会は二度と行かないという選択をした。逆に自分がお茶会に招待する場合の人選にも悩んで、最終的に家族に助言を求めた。マリアお母様もアル兄様も、快く相談に乗ってくれてとても助かったわ。
アル兄様といえば、兄様がアカデミーに入学してから直接お会いする機会はめっきりなくなってしまった。だけど、代わりに始めた文通は、私が入学するまで一度も途切れたことがない。手紙にはいつも、アカデミーの生活を楽しんでいる様子と、家族を恋しく思う気持ちが綴られていた。
アル兄様と同期でアカデミーに入学したヴィンセント殿下とも文通をしていた。彼からの手紙にはアカデミーの生活とアル兄様の様子、魔術のことなどが綴られていた。殿下から見るアル兄様の様子が、とても新鮮で楽しかったことを思い出し、小さく笑みを浮かべる。
「リザ、どうかした?」
「ううん、ちょっと思い出しちゃって」
パーティー会場前につくと、階段の前で女性に囲まれている人たちが見えた。……なんだか、見覚えがあるような……と思ったら、囲まれていたのはアル兄様とヴィンセント殿下のようだ。私たちに気付くと、大きく手を振った。……心なしか、助けてくれといわれているような気がする。
私たちは顔を見合わせ、それから彼らに近付いた。
「リザ! 入学おめでとう!」
わざとらしく大きな声で声をかけてきたアル兄様に、彼を囲んでいた女性たちがピタリと動きを止めて、みんな一斉にこちらを見た。ぎらぎらとした視線を受けて、迫力があるなぁと感じたけれど、大丈夫。私はもう、誰かに怯えることはしない。
「ありがとうございます、アル兄様。今、お時間よろしいですか? 私の友人を紹介いたしますわ」
「ああ、手紙で読んで知っていたけど、直接紹介してくれるなんてリザは優しいな! それじゃあ、レディたち、僕らはこれで!」
にこやかな微笑みを浮かべて軽く手を上げるアル兄様に、女性たちは「えー!」と不満そうに声を合唱させる。アル兄様、とても人気者なのねぇ。そして、それはヴィンセント殿下もそうみたい。だけど、なんだか……私と会っている時とは全然、表情が違うわ。にこりともしていない。そう考えていると、彼は私に近付いてきた。どうしたんだろう?
「久しぶりだね、エリザベス嬢。ぼくの贈ったペンダント、使ってくれてありがとう」
――あ、わかりやすい牽制だ。さっきまで無表情だったのに、私に対しては笑顔だし、声も甘く感じる。少しだけ考えて、彼の言葉に乗ることにした。
「ごきげんよう、ヴィンセント殿下。ええ、肌身離さず。殿下も私が贈ったプレゼントを身につけてくださっているのですね、ありがとうございます」
にこやかに彼の首元に視線を向ける。きらりときらめくゴールデンベリルのペンダント。間違いなく、私が贈ったアミュレットだ。
「ぼくも肌身離さず。このペンダントをしていると調子が良いんだ」
それは良かった。女性たちがなにかをいいたそうだったけど、公爵家の一員である私と、王族のヴィンセント殿下との会話に割り込むことはできないみたい。……養女ということは広く知られているだろうけどね。
「こんなところに人が集まっていては、迷惑だね。エリザベス嬢、ぼくにもきみの友人を紹介してくれる?」
「もちろんですわ」
ヴィンセント殿下はすっと手を差し出す。どうやら、エスコートをしてくれるみたい。私はその手を取って階段を上がった。ここで彼の誘いを断るのは不自然だろうし、いやではなかったから。
パーティー会場に入る前に、私たちは足を止める。ジーンはアル兄様、イヴォンは……見覚えのある人にエスコートされてきた。誰だったかしら? 記憶を巡らせたけれど思い出せない。
私の視線に気付いたのか、イヴォンをエスコートした男性はにこりと微笑んだ。やっぱり、どこかで見たことがある。
「お久しぶりです、エリザベス嬢」
やっぱり知り合いだった! 私が「ごきげんよう」と挨拶をすると、アル兄様が教えてくれた。
「覚えてる? ハリスンだよ」
思わず目を丸くしてしまった。だって、あまりにも背が伸びていたから!
「ハリスンと知り合いだったの?」
「え、ええ。二年前に神殿でお会いしましたよね」
「そのあと、シリル様の誕生日パーティーで本当に『紹介』だけされたね」
どこか遠い目をするハリスンさんに、私は眉を下げた。二年前のシー兄様の誕生日パーティー。私が正式にアンダーソン家の養女として公表された日。次から次へと紹介された貴族の中に、確かに彼もいた。ただ、あの時は緊張していて、あまり覚えていないのよね。ソフィアさんとの会話は、マザー・シャドウや彼女の母国であるカナリーン王国に関する話につながったから、覚えているのだけど。
マザー・シャドウについて思い出すと、どうしても気分が沈む。結局私も、ファロン家の人たちも、マザー・シャドウの毒牙にかかっていたのよね。私が顔に火傷を負ったことも、宝石眼になったことも、彼女の策略だ。知らなかったとはいえ、彼女に逃げ道を作ってしまったことが、悔しい。
――でも、今はそれよりも大切なことがある。
「ええと、アル兄様、ヴィンセント殿下。こちら、私の友人のジーン・マクラグレンとイヴォンです」
「お噂はかねがね。会えて光栄だよ、マクラグレン侯爵令嬢」
「私もですわ、アルフレッド卿。エリザベス様とは親しくさせて頂いています」
「私は?」
「きみとは何度も顔を合わせているだろう」
イヴォンが「だよねー」と明るく笑った。……そっか、イヴォンとアル兄様たちは同期生だから、親しくもなるのね。そう考えていると、ハリスンさんがイヴォンの腰に手を回した。
彼女たちの様子を見ると、イヴォンが愛しそうにハリスンさんへ微笑みを浮かべていた。彼もまた、同様に。え、もしかして……もしかするの!?
「改めて……ハリスン・フロスト。伯爵家の次男」
「そして、私の騎士」
想像していた言葉ではなかったけれど、騎士? と首を傾げる。するとイヴォンが口元を隠しながらくすくすと笑う。
「ごっこ遊びのようなものよ。淑女崇拝的な、ね」
「……きみは立派なレディだよ、イヴォン」
「ありがとう、ハリスン」
まるで物語のお姫様と騎士を見ているような気持ちになり、幸せそうに微笑み合う二人を眺めた。
「アカデミーではこんなごっこ遊びをしている人たちも多いよ」
「そうなんですか?」
ヴィンセント殿下が首をこくりと動かした。ごっこ遊び、にしてはハリスンさんのイヴォンに対する視線は熱烈だと思うし、彼女も彼のことを愛しそうに見ているし……よくわからない。
私はジーンに視線を向けた。彼女は羨ましそうにイヴォンを見ている。やっぱり騎士に守られることに憧れるのかしら……?
そう思考を巡らせていたら、鐘の音が響いた。
「……あ、そろそろ始まるね。それじゃあ、会場に入ろうか」
「はい」
ヴィンセント殿下が私の隣に立つ。どうやら会場に入る時もエスコートをしてくれるみたい。ハリスンさんとイヴォン、アル兄様とジーン、そして私たちの順で会場の中に足を進める。入学祝いのパーティーだから、パートナーがいなくても入っていいみたいだけど、私たちのように男女の組み合わせで入場する人たちが多く、みんな期待に胸をふくらませた表情で歩いている。
――だけど、一人で会場に入り、その場にいる全員の目を奪う人がいた。
真っ赤なドレスに身を包み、真っ赤な口紅をつけた銀髪黄金目の少女――そう、ジェリー・ブライトだ。
その血のように赤い唇とドレスを見た時、ついヴィンセント殿下と繋いだ手を強めてしまい、彼に小声で問われる。
「……大丈夫?」
ヴィンセント殿下を見上げ、そして、こくりと首肯した。
「……はい、大丈夫です。すみません」
「謝らないで。いつだって頼って構わないのだから」
「……ありがとうございます」
安心させるように微笑む姿に、胸の奥が熱くなった。二年前の私を知っている彼の存在が、こんなにも心強いものだったのかと一度深呼吸をしてから、明るい笑顔を見せる。彼女が私になにかしたわけではないのだし、気にしないようにしないとね。
今は、この入学祝いパーティーを楽しもう!
パーティー会場はとてもきらびやかだった。教師たちも正装をしていて、会話を楽しんでいるように見える。アカデミーの学園長の挨拶から始まり(入学式で長々と話したからと短めだった)、学生自治会の会長の挨拶や、なぜかシー兄様が挨拶をしていて……待って、どうしてシー兄様がここに? びっくりして目を丸くしていると、「驚いた?」とヴィンセント殿下が悪戯に成功したように口角を上げていた。
挨拶が終わり、本格的にパーティーが始まる。立食式のパーティーなので、いろいろな料理がずらりと並んでいた。シー兄様が私に軽く手を振りながら近付いてくる。
「リザ、入学おめでとう!」
「ありがとうございます、シー兄様。……あの、なぜシー兄様がアカデミーに?」
「アカデミー周辺の警備を任されているんだ。というか、リザが入学する前から異動願いを出していてね、今年ようやく受理されたんだ! うちの可愛い弟と妹が通うアカデミーだからさ! 本当はアルの入学と合わせたかったんだけどね」
「アル兄様の入学と?」
シー兄様はアル兄様の肩をガシッと掴んで、にこやかにこう言った。――ただし、小声で。
「アンダーソン家の跡取りだからね、アルは」
「シリル兄様っ!」
「……え? アル兄様が跡取り……?」
てっきり長男であるシー兄様が、アンダーソン公爵家の跡取りだと思っていた。アル兄様はバツが悪そうに私から顔を逸らしてしまう。
「正式な発表はまだだけどね。アルが卒業する頃かな? ……巫子の血を濃く継いでいるのはアルだから、そんなに不思議なことではないだろう?」
ぽんぽんとアル兄様の肩を叩くシー兄様に、ぱちくりと目を瞬かせることしかできなかった。少ししてハッとした私は、顔をアル兄様に向けて、彼の手をガシッと握る。
「リザ?」
驚いたように私を見るアル兄様に、自分の思いを紡ぐ。
「応援します! 私にできることは微力なことでしょうけれども……!」
「ありがとう……?」
なぜ疑問系なのでしょうか、アル兄様。
そうして会話を交わすうちに音楽が変わり、ダンスの時間になったようだ。ヴィンセント殿下が私にすっと手を差し出す。
「レディ、一曲お相手願えますか?」
「喜んで」
シー兄様はもう一度ぽんっとアル兄様の肩を叩き、私とヴィンセント殿下に近付いた。
「今日の髪型、とてもよく似合っているよ」
「ありがとうございます、シー兄様」
会場に入った時と同じパートナーで、ダンスを踊る。ワルツは体に叩きこむくらい、何度も踊った。二年でだいぶ上達したと思いたい。
「……本当に、よく似合っているよ、その髪型」
「ふふっ、ありがとうございます。ところで、この身長差、踊りにくくありませんか……?」
「平気だよ」
ヴィンセント殿下にも髪型を褒めてもらった。そして、結構な身長差があることに気付いて問いかける。もっと伸びないかしら、私の身長。ヴィンセント殿下は笑顔で踊ってくれているけれど、きっと踊りにくいと思うの。アル兄様もヴィンセント殿下もハリスンさんも……身長がぐんと伸びて羨ましい。
「またきみと踊れて嬉しいよ」
「お世辞でも嬉しいですわ」
「……お世辞じゃないよ」
ふわっと私の体が浮き上がる。ドレスがふわりと揺れて、それを意識するようにヴィンセント殿下がターンした。一瞬、全員の動きが止まったような錯覚を覚える。とん、と床に私を下ろす。ふふっと思わず笑みがこぼれた。だって、このダンス……シー兄様の誕生日パーティーと同じなのだもの。
「緊張は解れたようだね」
「ええ。まだまだ踊り足りないくらいですわ」
「うん、良い笑顔」
ヴィンセント殿下は不思議な人だなって、いつも思う。こんなにも私に見せてくれる笑顔はまぶしいのに、魔術に夢中になると目を輝かせてまるで幼い子のように見える。でも、その姿を見るのはいやじゃなかった。
「ヴィー、交代」
「そうだね」
「リザ、僕とも踊ってくれる?」
アル兄様と踊るのは久しぶりだったので「もちろん!」と元気よく答えた。互いに視線を交わして、小さく笑い合う。穏やかな時間だ。
「アル兄様が、跡継ぎだったのですね」
「巫子の血の関係でね。シリル兄様より、僕のほうが巫子の血が濃いから」
「シー兄様は、その……」
「元々、自分が跡継ぎになるつもりはなかったみたい。ただ、エドが生まれたあとに、三人の中で一番僕が巫子の血を濃く継いでいるってことで、自分からアンダーソン家のサポートに回るって言っていたらしいよ」
もしかしたら、アル兄様が生まれた時に、どのくらいの差があるのかを感じ取ったのかもしれない。だからこそ、自分のできることをやろうと考え、強くなろうと……?
「お母様も、僕が跡継ぎだと思っていたみたいだし」
「お母様も?」
「うん。だからこそ、絶対にアカデミーに入れたかったんだと思うよ」
「えっと、それはなぜ……?」
アル兄様がくすりと口角を上げて、それからボソッと呟いた。
「友達とお嫁さん探し」
「えっ?」
それはあまりにも意外な言葉で、思わず聞き返してしまった。そんな私に、アル兄様は楽しそうにターンをしながら、言葉を続ける。
「こういう学園で出会えた友達は、かけがえのないものなんだって。それと、婚約者も探さないといけないからね。在学中に結婚する人たちもいるらしいよ」
「そうなんですか?」
「結婚した令嬢は家に入るから、単位を取って早急に卒業しないといけないんだって。だから、在学中に結婚すると忙しいみたい」
アカデミーで出会った人と婚約、そのあと結婚……? 在学中にそんなことが可能だとは思わなかった。
「もちろん家の方針でも違うらしいよ。じっくりと何年もかけていいって家もあるみたいだし」
「様々なんですね……」
感心したように呟くと、アル兄様が小さく頷く。……それにしても、こんなふうに話しながら踊れるようになるとは。ダンスの腕が上達したのだと実感できて、とても嬉しいわ。その後、シー兄様とハリスンさんにも誘われたので一緒に踊った。護衛として一緒にアカデミーに来たカインは、その姿を見守ってくれていたみたい。
さすがに連続で四曲も踊ったから、疲れちゃった。喉が渇いたから飲み物を頂こうとウエイターに近付こうとすると、すぐにグラスを用意してくれた。ひょこりとソルとルーナが現れ、飲み物を調べ「大丈夫」と教えてくれたので、そのグラスを受け取る。
「ありがとう」
「ごゆっくりお楽しみください」
お礼を伝えると、ウエイターは軽く頭を下げて戻る。飲み物を求める令嬢や令息を見つけて、すぐに持って来てくれたみたい。……あれ、でも考えてみれば、アンダーソン家に住んでからウエイターやウエイトレスに声をかける前に、さっと来てくれることがほとんどだ。待たされるのは、お忍びで遊びにいった時くらい。
とりあえず喉が渇いたから受け取った飲み物を口にする。甘酸っぱいレモネードは、ダンス後にぴったりな飲み物だと思う。
「どこに行く?」
「バルコニー。風に当たりたくて」
私が歩き出すと、ソルとルーナもついてきた。バルコニーの扉を開けて、外の空気を思い切り吸い込む。四曲も連続で踊れるようになったなんて、二年前には考えられなかったことよね。
「キラキラ~」
「そうね。会場はとってもきらびやか。反対に、バルコニーは静かね」
「落ち着きやすい場所だから良いのでは?」
「ふふ、確かに」
バルコニーからパーティー会場を見つめる。いろんな人たちが踊っている姿を見るのは好きだ。踊っている人たちの身長差を眺めて、やはりあまり身長差がないほうが踊りやすそうだな、と感じる。
さっきまであの中に自分がいたことが不思議なくらい、きらびやかな世界。そんな世界の中に私がいるなんて……と考えていると、ソルとルーナが私を見ていることに気付いて「どうしたの?」と声をかける。
「エリザベスは楽しんでる?」
「ええ、もちろん。アカデミーってどんなところなのかよく知らなかったけれど、先に入学したみんなと文通をして、想像を膨らませていたの。想像の何倍も素敵なところだなぁって、入学初日から思っているわ」
キラキラと輝く世界。色が見えるようになった時も世界が広がったと思った。……二年前まで、私の世界は暗くて狭い場所だと思い込んでいた。それが今ではこんなにも明るく、輝かしい場所に立てる。そのことがとても嬉しい。
今の私なら、いろいろなことに向き合えそうだと思った。
「家族にも友人にも恵まれて、私は果報者だとしみじみ感じるもの……」
「まだまだ」
「これから」
「もっともっと」
「幸せにならなくちゃ」
精霊たちが交互に喋る。精霊たちと一緒に眠るようになってから、私の体はすこぶる健康だ。今までは体内に魔力をぎゅうぎゅうと詰め込んでいたみたいで、アカデミーに入る前に二年分の魔力がどのくらい溜まったのかを聞いたら、アンダーソン邸が三つは入るくらいと教えてくれた。とても広いお屋敷だから、そのくらいの魔力がソルとルーナに食べられていると思うと、なんだか不思議な気がしたわ。
「……お邪魔だったかな?」
一通り踊り終えたのか、ヴィンセント殿下も飲み物を手にしてバルコニーに足を運んだ。私は「一緒に休憩しましょう」と彼を招く。殿下はほっとしたような笑みを見せ、バルコニーの扉を閉めてからこちらに近付き隣に立つ。
「改めて、入学おめでとう」
「ありがとうございます」
乾杯、と目元までグラスを持ち上げる。一口飲んで、それからゆっくりと息を吐いた。
「運動後のレモネードって美味しいよね」
「本当に。……殿下はレモネードがお好きなのですか?」
「こういう運動後ならね。すっぱすぎるのは苦手なんだ」
内緒だよ、と口元で人差し指を立てる彼を見て、扇子で口元を隠してくすくすと笑い声を上げた。ヴィンセント殿下はすっと目元を細めると、会場に視線を移す。つられるように会場に視線を向けると、真っ赤なドレスを着た女性……ジェリーが誰かと踊っているのが見える。
「……そっくりだね」
「え?」
「ジュリー・ファロンによく似ている。ただ、なんとなく違和感があるんだ」
「……違和感、ですか?」
「うん。なんだろう、混ざり合わないような、なにかが。……言葉って難しいな、うまく説明できなくてごめん」
眉を下げて頬を人差し指でかく姿を見て、「いえ、そんな」と慌てて手を横に振った。
会場に視線を戻すと、彼女の真っ赤なドレスに目を奪われる。やはり目立つなぁ。でも、彼女よりも気になることがある。
「あの、ヴィンセント殿下は、アカデミーでどんなことを学んでいますか?」
「魔術がほとんどかな。クリフ様のおかげで、魔力と巫子の力はそれなりにコントロールできるようになったし、自分の力がどのくらい通用するのか試してみたい。あ、あと剣術も磨いているよ」
「剣術も?」
「うん。もっと言えば体術も。最終的には剣よりも拳のほうが頼りになるかもしれないし」
片目を閉じ茶目っ気たっぷりに笑う彼を見て、この二年間でいろいろなことがあったと感じた。
「――ぼくはね、この手でいろいろなことを掴み取りたいと思っているんだ。ぼくにできることを掴み取るつもり。アカデミー在学中に様々なことをやってみたいんだ」
「素敵ですわ、ヴィンセント殿下」
「ありがとう。前向きな気持ちになれたのは、きみたちアンダーソン一家のおかげだよ」
……お礼を伝えられるとは思わなくて、思わず目を瞬かせた。彼はすっと私の手を取ると手の甲に唇を落とす。その仕草があまりにも自然で、見惚れてしまった。
そっと、静かな動きで唇が離れる。こういうことが自然にできるのは、ヴィンセント殿下が王族だから? アル兄様やシー兄様が令嬢に対してこういうことをしている場面はあまり見たことがないから、心が落ち着かない。
「どうかした?」
「あ、いえ。なんでもありませんわ」
手袋をしているから直接触れたわけじゃない。触れたわけじゃないのに――どうして、こんなにも心臓の鼓動が早鐘を打つのかしら……?
「あと数ヶ月もすれば、今度は夜会をイメージした舞踏会があるよ」
「え、そうなのですか?」
「うん。アカデミーで練習できると思うと、ちょっと気が楽にならない?」
アンダーソン公爵家の養女になったことで、お茶会に招待されることが多くなったが、夜会には参加したことがない。そもそも、まだ参加できない。この国の法律では、成人した男女しか参加できないから。
「なるほど、社交界デビューの準備期間ともいえるのですね」
「アカデミーが主催だからお酒はないけどね。その代わり、ノンアルコールカクテルが多かったよ」
「ノンアルコールカクテル……? そういえば、殿下は誰をエスコートしたのですか?」
「誰も。二年間ウエイターをやっていたよ」
王族が、ウエイター? 目を瞬かせると、彼はこてんと小首を傾げて「そんなに驚くこと?」と聞いてきたので、何度も頷いた。だって、王族がウエイターって!
「それじゃあ、もう一つ教えてあげる。アルもウエイターをしていたよ」
「アル兄様も!?」
ウエイター姿のアル兄様とヴィンセント殿下を想像して、思わず顔を赤らめた。絶対に似合う。いや、アル兄様たちなら、どんな格好でも格好良く着こなすでしょうけど……ああ、この目で見てみたかった。
「ちなみに今年は……?」
「エリザベス嬢がいるから、エスコート役を申し込もうと思って」
「わ、私に?」
「そう。気が早いけど、ぼくにレディのエスコートをさせて頂けませんか?」
「よ、喜んでお受けします……」
やった、と小さく笑うヴィンセント殿下を見て、眉を下げて微笑んだ。
「あの、本当に私で良いのでしょうか?」
「もちろん。きみと一緒にいられるのが、一番楽しい」
優しい表情に、柔らかい口調でそう言われて、胸が熱くなる。私もヴィンセント殿下と魔術を通していろいろな話をしていたのが楽しかったから、そう言われてとても……とても、嬉しかったの。
「それと、ぼくの呼び方なんだけど……」
「ヴィンセント殿下?」
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