そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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4章

4章125話(425話/完)

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 後ろから声を掛けられた。シー兄様が私たちの背後にいて、びっくりして肩をびくりと震わせる。すると、シー兄様が「驚かせてごめん」と眉を下げる。

「そう! 広い夜空に花を咲かせたら綺麗だろうなぁって思って!」
「そこに動物もいたら楽しいかと思って!」

 アル兄様とヴィニー殿下は興奮気味に語り出した。シー兄様は呆気に取られたように目を丸くしたけれど、すぐに優しい笑みを浮かべてふたりの話に耳を傾けた。その間にも、夜空には花と動物の形を模した光が輝いている。シー兄様の近くにいたディアが、こっそりと話しかけてきた。

「アルフレッド様も、ヴィニー殿下も、魔術のことになると目がキラキラと輝いているね」
「ふふ、昔からそうみたいよ?」

 私がアンダーソン家の養女になる前から、魔法や魔術にのめり込んでいたみたいだから。なにかに夢中になれるって、とても素敵なことだと思う。

 これからきっと、もっといろいろなことがあるだろう。その中には、とてもつらいことや悲しいこともあると思う。もちろん、とても楽しいことや嬉しいこともあると思う。

「私もがんばらなくちゃね」

 小声で呟いた。彼の隣に、胸を張っていられるような淑女レディを目指そう。それはきっと、アンダーソン公爵家の令嬢としての責務を果たすことにも繋がるだろうから。

 ――私は私なりのやり方で、大切な人たちを支えよう。

 そう心に決めて、ディアと一緒に夜空を眺める。この日の光景を、忘れることはないだろうな、と思い微笑んだ。くいっと手を引かれて驚くと、ヴィニー殿下とアル兄様がそれぞれ私の手を取っていた。

「どう、リザ。気に入った?」
「アルと一緒に考えたんだよ」

 ふたりの言葉を聞いて、私は満面の笑みを浮かべる。

「もちろんよ、ありがとう、ふたりとも!」

 私がそう言うと、ふたりともとても嬉しそうに表情を緩ませた。

 アカデミーの舞踏会の最後、ふたりの手をぎゅっと握って、アル兄様とヴィニー殿下を交互に見る。こんなにも幸せな気持ちが溢れて、生きていて良かったと思えることが嬉しい。

 これから先の未来、なにが待っているのかわからないけれど――……、愛する人たちと一緒なら、なんでも乗り越えられると感じた。

 ときには立ち止まることもあるだろうけれど、きっと大丈夫。私たちは前を向いて歩いて行けると確信しているの。だって、様々なことを乗り越えられたのだから。

「アル兄様、ヴィニー殿下」
「ん?」
「リザ?」

 私の声にふたりがこちらを向く。笑みを浮かべて、「これからもよろしくお願いします」と言葉を紡ぐと、ふたりは目を大きく見開いてからふっと表情を綻ばせた。

「もちろん、リザは僕らの可愛い妹で家族なのだし」
「僕にとっては愛しい婚約者でもあるし」
「言うねぇ」
「そっちこそ」

 なんて、ぽんぽんと会話を弾ませるアル兄様とヴィニー殿下に、ふふっと笑いがこぼれた。この幸せな気持ちを胸に、いろんなことをがんばれそうだなって思った。

 ――私、生まれてきて良かったと、心の底から思えるの。

 それはきっと、あなたたちに出会えたから。

 愛されることを知り、愛することを知ったから。だからこそ、この幸せをずっと感じられるように努力しないとね。

 夜空に咲く花々を眺めながら、ぎゅっとふたりの手を強く握った。すると、ふたりとも握り返してくれた。

 幸せな気持ちを与えてくれる人たちに感謝をしているの。家族、友人、婚約者……いろいろな人が、私のことを気に掛けてくれていることを知っている。その思いに応えられる人になりたい。目指したいものがたくさんある。だから、一歩ずつ進んでいこうと思うの。

 マリアお母様のような優しさや、ジャックお父様のようなおおらさかさ、シー兄様のような強さに、アル兄様のような魔術の腕、エドのような愛らしさ。家族の良いところを挙げるとキリがないくらい。それは、友人たちにも言える。

 私が目指す『淑女レディ』に、少しずつ近付いていきたい。そのためにも、アカデミーでいろいろなことを学んで、知識を身につけよう。みんなと一緒なら、それもきっと楽しい思い出になると思う。

 いつか大人になったとき、過去を振り返って『がんばったね』と胸を張れるように、一日一日を大切に過ごそう。

 ――愛する人たちと、一緒に。


―FIN―
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