そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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4章

4章118話(418話)

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「シリル兄様、痛い……」
「アルがヴィーに振り回されているの、珍しいな」
「そう? 結構振り回されていると思うけど」

 ちらっとヴィニー殿下を見て、アル兄様が目元を細める。ヴィニー殿下は面白がるように喉を鳴らして笑い、それを誤魔化すように飲み物を口に含んだ。

「アルとヴィーが揃うと、なにを企んでいるのか不安になるくらいには、こっちが振り回されていたけどな?」
「ええ~?」

 シー兄様がふたりに視線を向けて、緩やかに首を左右に振る。私が首を傾げると、シー兄様はふたりが小さい頃の話をしてくれた。

 新しい魔術を編み出そうと徹夜を続けて、マリアお母様から散々怒られていたこと。編み出した魔術で爆発が起こり、驚かせていたこと(部屋に保護魔法が掛かっていて大事にはならなかったそうだ)。あまりにも部屋に引きこもるので無理矢理外に連れ出し、太陽の光を浴びるとぱたりと倒れたこと……など。

 アル兄様とヴィニー殿下は、「昔の話だよ!」と慌てたように私たちに話していたが、ジーンもディアも揃って「……今とあまり変わらないのでは?」と言いたそうな表情をしていた。

「もー、シリル兄様、なんでそんなことばっかり覚えているのさ!」
「そうだよ、もっといい思い出もあるでしょ!?」

 アル兄様とヴィニー殿下がシー兄様に詰め寄るように近付く。シー兄様はただ笑っていた。そして、ぽんとふたりの頭に手を乗せて、くしゃくしゃと撫でる。

「それは、お前らが生まれてきたことだなぁ。知らないと思うけど、弟が出来て本当に嬉しかったんだ、オレは」

 本当に嬉しそうに言うものだから、アル兄様もヴィニー殿下も息をんで彼を見つめた。シー兄様は優しい笑みを浮かべると、もう一度くしゃりとふたりの頭を撫で、

「――頑張ったな、アルも、ヴィーも。でも、もうちょっと、大人を頼ることを覚えような? ……それは、リザにも言えることだけど」

 そう言った。私に視線が向けられて、思わず眉を下げてしまう。頼っているつもりだったけれど、シー兄様から見たらまだまだだったのかもしれない。

「……それは大人でなくても構わないのでは?」

 ディアがそっと片手を上げて言葉を紡ぐ。一斉に彼女に視線を向けると、ディアは上げていた手を自分の胸元に置き、微笑んだ。

「わたくしたち、友人に頼ってもよろしいでしょう?」

 ねえ? と同意を求めるようにジーンを見る。ジーンはこくりうなずいた。

「もちろんよ。頼ってもらえるほうが嬉しいわ。私だって、みんなを頼っているし」
「ジーンが?」

 驚いたように目を大きく見開くと、ジーンは私の頭を指さした。

「そうよ。そのヘアアクセサリーだって、宣伝のために手伝ってもらっているじゃない?」
「あ、これジーン嬢が用意したんだ。綺麗な飾りだなって思ってた」

 ヴィニー殿下が感心したように呟く。ジーンは彼の言葉を拾い、「そうでしょう!」とパッと笑顔を輝かせた。

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