そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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4章

4章105話(405話)

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 そんな会話をしていると、アカデミーについたようだ。校門前で馬車から降りると、やはりというかなんというか、一斉にこちらを見る人たち。視線を一気に受けて、ディアが「うぅ」と小さく呻く。

「大丈夫よ、ディア。胸を張って」

 ぽん、とディアの背中を軽く叩くと、ディアは気合を入れるように深呼吸をしてから胸を張る。凛とした佇まいはとても格好良く見える。ディアの身長が高いから、というのもあるかもしれない。こうして背筋を伸ばしている姿は眩しく感じる。

「舞姫たちだわ」
「ヴィンセント殿下とアルフレッド様と一緒だ」

 そんな会話も聞こえて来た。……そうか、建国祭のあとすぐに長期休暇に入ったから……。とりあえず、このままここにいたら迷惑になりそうだから、女子寮に向かうことにした。アル兄様とヴィニー殿下も男子寮に向かう。

「……あ、リザ!」
「はい、ヴィニー殿下」

 それぞれの寮に向かうために歩き始めてすぐに、ヴィニー殿下に呼び止められた。振り返るとヴィニー殿下が駆け寄ってきて、私の手を取る。

 そこにめられている指輪を見て安堵したように微笑み、「その指輪、ずっとしていてね」と手の甲に唇を落す。

 一気に周りがざわめいた。きゃあという甲高い歓声も聞こえる。

「ヴィ、ヴィニー殿下!?」

 驚いて声が震えてしまった。ヴィニー殿下は楽しそうに目元を細めて微笑んでそれから「じゃあね」と軽く手を振ってアル兄様の元に走っていった。

「……さすが、ヴィンセント殿下ね……?」

 ぽつり、とディアがこぼした呟きに、私はなにも言えなかった。たぶん、イヤ絶対に、今……私の顔は真っ赤になっていることだろう。

 ディアが私の手首を掴んで、「行きましょう、質問攻めになる前に」と耳元で囁く。こくりとうなずいて、足早にそこから去った。

 女子寮に入り、自室に入る。ディアも一緒に。

「あら、早かったのね……って」
「どうしたの、リザ? そんなに顔を赤くして……」

 扉を閉めて肩で息をしていた私たちに、ジーンとイヴォンが不思議そうに視線を向ける。

「……たぶん、すぐにわかるわ」

 ディアが眉を下げてそう言ったので、ふたりはそれ以上なにも言わなかった。赤くなった顔を冷ますように、何度も深呼吸を繰り返す。それから、ジーンとイヴォンに「騒がしくしてごめんね」と謝ると、ふたりはふるふると首を横に振った。

「そういえば、ジーンはアルフレッド様とパートナーになったのね?」

 思い出したかのようにディアがジーンに問うと、ジーンは「え、今頃?」と目をまたたかせた。

「もうすでに知っていると思っていたわ」
「今日初めてアル兄様から聞いたの」
「あら、そうだったの?」

 意外そうに目を丸くするジーン。それからジーンは私たちを見て、こっちへおいでと手招く。

 私たちがジーンに近付くと、ジーンがそっと私の手を握った。

「リザは、アルフレッド様のパートナーが私じゃイヤ?」
「そんなことないわ!」

 きっぱりと言い切った。するとジーンは「そう? なら良かった」と嬉しそうに目元を細めて微笑んだ。

「イヴォンのパートナーはハリスンさんよね?」
「そうよ。ディアのパートナーは?」

 ディアは首を横に振る。え? とディア以外の私たちが目を丸くしていると、ディアは眉を下げて曖昧に微笑んだ。
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