229 / 252
4章
4章102話(402話)
しおりを挟む「ヴィニー殿下、本当にありがとうございます」
杖を握りしめて頭を下げると、彼は私の肩に手を置く。顔を上げると、緩やかに首を左右に振った。
「僕がやりたかったんだ。杖って重要だからね」
「……お身体も大事ですわ」
「あはは、ごめん、反省してるよ」
明るく笑うヴィニー殿下に、それ以上なにも言えなくなってしまった。私の肩から手を離し、ふわぁと眠そうに欠伸をするのを見て、眉を下げる。
「ヴィニー殿下、休んでください。眠いのでしょう?」
「……うん、じゃあ、そうさせてもらおうかな……。クリフ様、リザのことをお願いします」
「わかっておるわ」
どこか呆れを含んだような視線を彼に向けるクリフ様。
「リザ、先に部屋から出てくれるかの?」
「はい。では、ヴィニー殿下、ゆっくり休んでくださいね!」
返事の代わりにひらひらと手を振るヴィニー殿下に、小さく肩をすくめて部屋から出て行く。パタンと扉を閉めて、数分後にクリフ様が出てきた。
「ヴィニー殿下は?」
「着替えてベッドに潜ったらストンと寝たぞ」
「……やっぱりお疲れだったのですね」
手紙をもらってすぐに来ちゃったけれど、返事を出して後日にしたほうが休めたかしら? と考えながらもクリフ様と一緒に歩く。ピタリ、とクリフ様が足を止めた。
「クリフ様?」
「……リザ、ちょっと付き合ってくれんかのぅ?」
「それは構いませんけれど……」
付き合うって、どこへ? とクリフ様を見つめると、私の手を取って歩き始めた。廊下の隅で足を止め、杖で床をトントントン、と三回叩くと、魔法陣が浮かび上がり淡い光を放つ。
――一瞬で、別の場所に移動した。
「ここは……?」
「魔法の訓練所、じゃな。リザ、攻撃魔法をあの壁に向けて放ちなさい」
「攻撃魔法……」
攻撃魔法、と聞いて思い浮かんだのは火の球だった。イメージして、クリフ様の言う通りに壁に向かって放つ。自分が想定した火の球と同じ大きさだったことに、感動した。これも杖のサポートのおかげなのかしら?
「……ふむ」
「クリフ様?」
「もう少し大きく出来るかの?」
「やってみます」
火の球をもう一回り大きくして、壁に向かって放つ。火の球は壁に当たり消えていく。……壁が無傷なのがすごいと思う。焦げたりもせず、綺麗なままだ。
「では、次は弾ける火の球を想像してごらん」
「弾ける、ですか?」
「そうじゃ。壁に当たる前に四方に飛び散ると想像するんじゃ」
「は、はい……!」
弾ける火の球……壁に当たる前に……と想像しながら火の球を放つ。想像通りに壁に当たる直前に弾けた。クリフ様はそれを見て、パチパチパチ、と拍手をする。
「クリフ様?」
「素晴らしい腕前じゃ。リザはイメージ通りに魔法を使うのが得意なのじゃな」
「そう、なのでしょうか……?」
クリフ様はこくりとうなずいた。
「コントロールを覚えるのも早かったからのぅ。わしの孫たちは優秀な子たちが多いの」
その言葉があまりにも嬉しそうで、私は目を大きく見開いてそれから「ふふ」と笑ってしまった。ひいおじいさまに魔法のことを褒められるのはとても嬉しい。
「ありがとうございます、ひいおじいさま」
30
お気に入りに追加
8,791
あなたにおすすめの小説
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?
藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」
9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。
そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。
幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。
叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。