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4章
4章83話(383話)
しおりを挟むカーラ様から、どのように過ごせば良いのかを教えてもらい、その通りに過ごした。たまに、マリアお母様が顔を見せに来てくれた。ベッドの傍に椅子を置いて、物語を紡ぐように、いろいろなことを口にするお母様の表情は、とても穏やかだ。
「……病気ではないのに、こんな風に休んでいても良いのでしょうか?」
「病気じゃないから休むのよ。軽く身体を動かすくらいなら良いけれど。でも、エリザベスには初めてのことでしょう? ゆっくり、自分の身体に向き合うべきだと思うの」
そう言って、柔らかく私の頭を撫でた。その優しい手つきに、なぜか泣きそうになる。じわり、と涙が滲むのを誤魔化すように微笑んだ。
「お母様。――私、お母様のような女性になれるでしょうか?」
「あら、わたくしを目指してくれるの?」
お母様は嬉しそうに目元を細める。こくりとうなずくと、私の頭から手を離して「そうねぇ」と呟く。
「わたくしは、エリザベスにはエリザベスらしい『淑女』になって欲しいと思うわ」
「私らしい、『淑女』?」
ええ、とお母様が私の頬に手を伸ばして、そっと触れた。
「だって、あなたはわたくしの自慢の娘ですもの。あなたはあなたらしく、が一番だと思うのよ」
そう言って微笑むお母様に、私は言葉を出せなかった。とても優しい顔をしていたし、『自慢の娘』という言葉に息を呑んだからだ。私のことを、そう思ってくれていたことに、嬉しさが溢れる。
「――でもそうね、目指してくれるのは嬉しいわ。あなたがなりたい『女性』の像がわたくしなんて、母親としてはとても嬉しいもの」
くすくすと鈴が転がるように笑うお母様は、もう一度私の頭を撫でてから「ゆっくり休むのよ」と部屋から出て行った。その背中を見送りながら、やっぱりお母様のような女性になりたいと思った。
凛としていて、優しくて、いつも手を差し伸べてくれる、女性に。
私のベッドの上で丸くなっていたソルとルーナが、のそりと動き出した。さっきの話を聞いていたのだろう。
「エリザベスは、マリアのようになりたいの?」
ルーナの問いに、うん、と小さくうなずいた。ルーナは「そうなんだぁ」と興味深そうに言葉を発し、ソルはちょっとだけ私に近付いてじーっと見つめてきた。
「ソル?」
「ソルにはエリザベスが目指す『淑女(レディ)』がどういうのかわからない。けど、エリザベスはエリザベスのままで良いと思う」
「ルーナも!」
ソルの言葉に賛同するように、ルーナがぴょんと跳ねた。
「――ありがとう」
お母様と同じようなことを言われて、思わず笑みが浮かんだ。
ソルとルーナに腕を伸ばすと、私がしたいことを察したのか、手が届く範囲に来てくれた。ソルとルーナをまとめて抱きしめる。ソルもルーナも、私のことを本当に好きでいてくれているのだと感じて、なんだかくすぐったい気持ちになった。
「でもね、やっぱり目標はあったほうが良いと思うの」
「そうなの?」
「うん、きっと」
憧れる人は多い。その人たちのようになれたら、と考える。でも、私は私だから。その人たちを目指しながら、私らしい『淑女』になれたらいい。そう思えるようになったのは、みんなのおかげなのよね。
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