そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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4章

4章80話(380話)

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 それから、私たちは魔塔の倉庫へと足を運んだ。ヴィニー殿下は移動中に「月と星……」と呟いていた。

 クリフ様が先導するように歩き、真ん中に私、その後ろにヴィニー殿下という並び順で歩いていると、魔塔の人たちがこちらに手を振ったり、笑いかけてくるので、私は軽く会釈をしたり手を振り返しながら歩いた。

 倉庫にたどり着き、中へ入る。魔塔の倉庫は綺麗に整理されていて、少し驚いた。これならすぐに木材を探せそうだと辺りを見渡すと、「こっちじゃ」とクリフ様が木材のところまで案内してくれた。

 たくさんの木材が積み重なっていて、この中からどうやって選べばいいのだろうと首を傾げる。すると、ヴィニー殿下が木材を浮かせた。宙に浮く木材を見て目を丸くして後ろを振り返ると、彼が杖を出して「どれが良いかなぁ」と木材をくるくると回していた。

「ヴィンセント、選ぶのはリザじゃぞ」
「わかってますよ、クリフ様。でも、こんなにあるとリザも選び方がわからないでしょ?」
「そうですね……。思っていた以上に木材があって、驚きました」
「この木材は杖用に加工されたものじゃからなぁ」
「加工?」

 普通の木材ではダメだったのかしら? なにか理由があるのかとクリフ様を見つめると、クリフ様は肩をすくめた。

「普通の木材では、魔力に耐えられん。じゃから、魔力の宿った樹を切り、さらに魔力に耐えられるように加工するんじゃ」
「魔力に耐えられるように……」
「杖に魔力を通すからね。魔力が通りやすくするためでもあるんだよ」

 ヴィニー殿下が補足のように教えてくれた。確かに、魔力に耐えられずに折れてしまっては杖の意味はないだろう。

「アカデミーでは、誰にでも使えるような杖を使っているけどね」
「そしてそれらを作ったのが、ほぼヴィンセントとアルなんじゃよ……」

 クリフ様が遠い目をしてしまった。……一体、何本の杖をアカデミーに渡したのかしら……?

「とはいえ、魔力は人によって違うからの。その人の魔力に合った杖を使うのが一番なんじゃ」
「そしてこういうのは直感が結構いい仕事してくれるから、好きに選んでいいよ。この話を聞いたあとなら、少しは選びやすいんじゃない?」

 そう言って、ヴィニー殿下は私の前に木材をずらりと並べた。

 直感……。じっと木材を見つめて、私は真ん中の木材を指さした。

「では、この木材で」
「お、即決」
「直感です」

 にこりと微笑んでみせると、ヴィニー殿下とクリフ様が小さくうなずいた。

 選んだ木材を杖にするのは、ヴィニー殿下がやりたいと言ったので、お願いすることにした。クリフ様が呆れたようにヴィニー殿下を見ていたけれど、止めることはなかった。

「まぁ、ヴィンセントに任せておけば大丈夫じゃろ」

 その言葉にヴィニー殿下への信頼が見えて、ふふっと頬が緩んでしまう。

「それでは、私はアンダーソン邸に帰りますね」
「うむ。――リザ」
「はい、クリフ様」

 こっちへ来いというように手招かれたので近付くと、クリフ様が私の頭に手を置いて、優しく撫でた。

「――ヴィンセントのことを、よろしく頼む」
「――はい、ひいおじいさま」

 ヴィニー殿下のことを本気で心配して、傍に置いていたクリフ様――ひいおじいさまからの言葉に、私は胸元に手を置いてまっすぐに視線を向けた。

「これで肩の荷がおりたのぅ」
「あら、私たちまだまだ、ひいおじいさまに学ぶことがありますわ」

 私の言葉に、キョトンとした表情を浮かべたけれど、すぐにくしゃりとした笑みを見せほどほどに頼む」ともう一度頭を撫でられた。
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