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4章
4章77話(377話)
しおりを挟むクリフ様の感心したような声に、私は小さくうなずいた。夢の中に、幼いヴィニー殿下が出てきたことは伏せたけれど、ファロン家で過ごしていた『私』が出てきたことは話した。そして、月の女神に姿を変え、ソルたちが精霊界にいることを教えてくれたことも。夢なのに、こんなにもハッキリと覚えているのもなんだか不思議だわ。
「……リザ、『月の女神』としての記憶はあるのか?」
「いいえ。夢で見たくらいしか……。それに、その夢の内容も、もうほとんど覚えていません」
ゆっくりと首を横に振り、建国祭の間に見た夢の内容を覚えている範囲で話すと、ヴィニー殿下も興味深そうに聞いていた。
「ソル、ルーナ、リザの話に覚えはある?」
「我々が生まれる前のことはわからない」
「でも、月の女神からそんな感じの惚気は聞いたことあるよ」
「……惚気」
こくこくとうなずくソルとルーナ。シェイドがゆらゆらと左右に揺れているのを見て、ヴィニー殿下が「シェイドも聞いたことあるんだ」と目を丸くした。
「月の女神は本当に、彼のことが好きだったのだと思います。そして、人間のことも」
だからこそ、月に帰らずにカナリーン王国に住みついた。自分が愛した人たちを見守るために。……いつの日にか、それは人々にとって恐怖に変わり、月の女神を恐れるようになった……。そのときの彼女の心情を思うと、複雑な気持ちになる。
愛した人たちに恐れられるのは、つらいだろう。
「精霊界ではどうやって精霊たちと再会したんじゃ?」
「えっと、歌声のような声が聞こえて……」
月の女神の杖を渡して、その後……ぼっと顔から火が飛び出そうなくらい熱が集まるのを感じた。
それを見たクリフ様が、ジト目でヴィニー殿下に視線を移す。ヴィニー殿下は爽やかに笑顔を浮かべていた。
「僕とリザの魔力を合わせて、精霊たちを呼びました」
「ほーぉ?」
クリフ様は自分の顎を触りながら、ヴィニー殿下をじーっと見ていた。私が赤くなった頬を隠そうと両手を添えると、ヴィニー殿下は肩をすくめる。
「……まあ、婚約者なのじゃし? なにも言わんがのぅ……。ちゃんと合意の上じゃろうな?」
「クリフ様、それ『なにも言わない』に入らないのでは?」
ヴィニー殿下がクリフ様に対してそう言うと、クリフ様は「ぬぅ」と押し黙った。こほんと咳払いをしてから私に顔を向ける。
「しかし、女神の杖を渡してしまったのなら、あの力はどうなったんじゃ?」
「そういえば……試してみます」
精霊たちに会えたことが嬉しくて、浄化の火が使えるかどうかを試していなかった。
頬から手を離して、手のひらを上にして浄化の火を出せるか試してみる。目を閉じ、浄化の火をイメージしてみると……いつものようにぽわっとした感じではなく、ぶわっと勢いの良い炎になってしまった!
「きゃあっ!」
驚いて悲鳴を上げる。こんな風にコントロール出来なくなるのは初めてだ。
「リザッ」
慌てたようなふたりの声。ソルとルーナが炎を飲み込むように大きくなり、私が出した炎を消してくれた。
「大丈夫?」
「あ、ありがとう……。ソルもルーナも、平気? 熱くない?」
「エリザベスの魔力だから平気」
「減っていた魔力が戻って良い」
……精霊たちにはあの炎も『食事』になるようだ。そのことに驚きながらも、コントロールが効かなくなったこの力を思い、途方に暮れた。
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