そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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4章

4章76話(376話)

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 ヴィニー殿下はポケットからハンカチを取り出して、目元に押し当てたあと、ぎゅっとハンカチを握りしめて魔塔のみんなに対して笑みを浮かべてみせた。

「ありがとう、みんな」

 心底幸せそうにそう言うヴィニー殿下に、魔塔の人たちはまたワッと盛り上がった。クリフ様がゆっくりとうなずくのが視界に入り、私もお礼を伝える。祝福されるのは嬉しい。

「おふたりとも、お幸せにー!」

 とそれぞれの人々が口々に似たようなことを伝えると、魔塔の人たちは仕事に戻っていた。残されたのは私とヴィニー殿下、それからクリフ様だ。

「……クリフ様が考えたんですか?」
「いや。伝えただけじゃよ」

 緩やかに首を横に振るクリフ様。それじゃあ、みんな、ヴィニー殿下と私が揃うときを狙って祝福のサプライズを用意していたということ? と驚いて目をまたたかせる。

 いつ来るかなんて、わからないのに……。今か今かとソワソワしている姿を想像して、思わずクスリと笑ってしまった。

「そういえば、それはなんじゃ?」
「ああ、これはアルからの預かりものです。クリフ様に見てもらいたいって」

 丸めた用紙をクリフ様に差し出すヴィニー殿下。クリフ様は「ほう?」と受け取り、しゅるりと紐を解いて用紙を開きその内容をじっくりと読んだ。そして、「これをアルが?」と聞いてきた。

「うん。うまくいかないからクリフ様に見て欲しかったんだって」
「ちぃと複雑に描きすぎじゃな。もう少しシンプルにしたほうがうまく発動するじゃろう」
「ああ、じゃあ構想は合っているんですね。……って、ここで話すのもなんだから、僕の部屋に行きましょう」
「それもそうじゃな。リザも一緒に行くじゃろ?」
「はい、もちろん」

 そうして私たちはヴィニー殿下の部屋に向かい、部屋に入るとクリフ様が魔法でお茶を淹れてくれた。ぷかぷかと浮いているカップたちを眺めていると、ふわふわと私のほうまで来た。

 カップをそっと受け取ると、クリフ様が目元を細めて微笑んだ。

「それにしても、アリアから聞いたときは驚いたぞ」
「あ、母から聞いたんですね」
「うむ。王城が騒がしいと思ってアリアに近付いたら、興奮気味に教えてくれた。いつわしらに知らせてくれるのかと楽しみにしていたんじゃがのう?」
「すみません、いろいろと落ち着いてからと考えていました」

 それぞれ適当なところに座り、クリフ様が淹れてくれたお茶を飲みながら世間話をしていると、ソルとルーナ、そしてシェイドがひょこりと顔を見せた。精霊たちに気付いたクリフ様が、目を丸くする。

 それから「そうか、会えたか」と嬉しそうに声を弾ませた。

「久しぶり!」
「元気だったか?」
「……元気だったでしょ?」
「シェイド、老人を元気と決めつけるなよ。まあ、元気だったがな!」

 ふぉっふぉっふぉっ、と笑いながら精霊たちがいない間も元気だったことを教えてくれた。精霊たちは「だよねー」と笑い合っている。

「精霊界に行ったのだな?」
「はい、ソフィアさんに頼んで。リザの夢を手掛かりに」
「夢?」

 ヴィニー殿下がこくりとうなずき、私に視線を向ける。話すことを促しているようだ。私はクリフ様に、精霊たちがいない間に見た夢のことを話し、精霊たちも黙って私の話を聞いていた。

「ほう、それは不思議な夢じゃな」
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