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4章

4章75話(375話)

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 魔塔につくまでの馬車の中、ヴィニー殿下といろいろなことを話した。ジーンたちに打ち明けるのはいつにしようか、イヴォンとハリスンさんの結婚の話題、これから先の未来、どんなことをしたいか……いろいろなことを言葉にすると、どんどんと楽しくなって、会話が弾んだ。

 だからなのだろう、魔塔につくのがあっという間だった。

 ヴィニー殿下にエスコートされながら降り、カインは「外で待っています」と言った。

「わかったわ、それじゃあ、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」

 ……こんな風に『行ってきます』や『行ってらっしゃい』を言えることも、幸せのひとつなのだと教えてもらったの。

 魔塔に入ると、シーンと静まり返っていた。いつもは照明魔法で明るくなっているのに、真っ暗で少し……いいえ、かなり驚いた。その様子の私に、ヴィニー殿下が手をぎゅっと握ってくれた。精霊たちも出て来ないと言うことは、危険はないのだろう。

 こつ、こつ、と小さな足音を立てながら歩く私たち。数歩歩いたところで、いきなりパッと明るくなった。

 そして――……

「ご婚約おめでとうございます!」

 という、魔塔の人たちの声が重なり、紙吹雪が吹き荒れた。風の魔法で散らしているみたい。

「――びっくりしたかの?」
「ひいおじいさま!」

 今度は、私とヴィニー殿下の声が重なった。ひいおじいさま――クリフ様は楽しそうに目元を細めて微笑み、それからパチン、と指を鳴らす。すると、さっきまで吹雪いていた紙たちがパッと消えた。

「あのヴィンセント殿下が婚約をするなんて……!」
「これは魔塔の全員でお祝いしなきゃと急いで用意したんですよ!」
「……なんで……」

 ヴィニー殿下は驚きすぎて目を大きく見開いていた。クリフ様がこつん、と杖でヴィニー殿下の頭を軽く叩く。

「お前は本当に人に興味がなさすぎじゃな。魔塔のものたちは、みな、お前たちのことを祝福したいとサプライズしたのに」
「えっと、だから、なんで……?」

 本当に困惑しているようだ。そして、声がわずかに震えている。

 私はそっと、彼の手をぎゅっと握った。ハッとしたようにヴィニー殿下が私を見て、それから魔塔の人たちを見渡す。みんな、ヴィニー殿下のことが好きなのね。

「きっとみんな、ヴィニー殿下のことを見てきたからじゃないでしょうか」
「リザ?」
「リザの言う通りじゃ」

 ぼそっとクリフ様が呟く。耳に届いたのか、ヴィニー殿下の力がすっと抜けた気がする。それからもう一度、魔塔の人たちのことを見て……、ううん、もしかしたら『た』のかもしれない。顔が赤くなっていたから。

「……ありがとう」

 ヴィニー殿下は、心底嬉しそうに……綺麗に微笑んだ。

 その表情を見て魔塔の人たちがさらに「おめでとうございます!」や「幸せになってくださいね!」と声を掛ける。

 ……なんだか不思議な気持ちになったわ。こんな風に祝福してくれる人たちがたくさんいるのって。ヴィニー殿下もそうだったのかもしれない。魔塔の人たちに祝福されたことで、胸に込み上げるものがあったのだろう、彼の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。
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