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4章
4章74話(374話)
しおりを挟む魔塔へは馬車で行くことになった。カインが御者をすると言ってくれたみたい。ソフィアさんも誘ったのだけど、「私はクラウディアちゃんと喋りたいから」と断られた。恐らく、今頃ディアと話していることだろう。
「それじゃ、行こうか」
「はい、ヴィニー殿下。カイン、よろしくね」
カインが小さくうなずくのが見えた。馬車に乗り込み、魔塔に向かっている途中で、ヴィニー殿下が口を開いた。
「そういえば、僕たちの婚約のこと、誰かに話した?」
「え? いいえ。正式に発表される前に話すことは、いけないことなのでは……?」
「うーん、でも、きみの友達たちに話すのは構わないよ?」
私は目を丸くした。話しても良いの? と驚いたのだ。緩やかに微笑むヴィニー殿下を見つめて、「よろしいのですか?」と思わず聞いてしまった。
「正式に発表される前に、話しておきたい人たちだろう?」
「……はい。私の大切な、友人たちですから」
魔塔から帰ったら、手紙を書こう。ジーンとイヴォン、それからジェリーに。みんなに話したいことが、たくさんあるの。
「ヴィニー殿下は、誰かに話しましたか?」
「ハリスンには話すつもり。僕、あまり友達居ないんだよね。人と関わらないようにしていたから、仕方ないんだけど」
肩をすくめるヴィニー殿下に、彼の過去を考えて少し納得してしまった。私には最初から親切だったけれど……、アンダーソン家のみんなと話すとき以外のヴィニー殿下の様子を思い出し、少し眉を下げる。
「巫子の力が強いのも考えものだよね。余計なことがわかるってあんまり良いことじゃないよ」
ふるふると首を横に振るヴィニー殿下に、なんて声を掛けたら良いのかわからなかった。
「……ヴィニー殿下は、最初から私に親切でしたわ」
「レディに親切にしない男にはなりたくないしね」
「私以外のレディにも親切だったのですか?」
ふと気になって聞いてみると、ヴィニー殿下は「うーん」と首を捻り、それから「表面上は?」と答えた。
表面上は親切……? ヴィニー殿下と話している女性を思い浮かべようとしたけれど、私以外と話す姿が思い浮かばなかった。
「王族だからね、王家の評判を落とすことはしないよ。表面上だけ親切に見せて、深く関わることはしなかったんだ。……でも、きみのときだけは違ったかな」
私たちが最初に会ったのは、二年前。私の瞳に掛けられた魔法を解除するためにクリフ様と一緒にアンダーソン邸に来てくれた。
「あの頃の僕は、アンダーソン家以外の人と話すことってあんまりなかったから、きみと話せたことが楽しかったんだ」
懐かしむように目元を細めて、私に微笑みかける。その表情があまりにも穏やかで、なんだか心が落ち着かない。
「私も、ファロン家の人たち以外と話すことがなかったから、すべてが新鮮でした」
同じように目元を細める。すべて、アル兄様に出会ってから変わったこと。
「アルは僕らの救世主だね」
「本当に」
きっと、ヴィニー殿下もアル兄様に救われていたのだろう。
そう考えると、アル兄様は私たちにとって、かけがえのない救世主なのよね。
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