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4章

4章73話(373話)

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「それを渡したかったんだ。受け取ってくれて良かった」
「本当にありがとうございます、アル兄様」

 嬉しそうに笑う顔を見て、アル兄様はすっと手を伸ばして私の頭を撫でた。

「――幸せになることを、願っているよ」
「――もうすでに、果報者よ、私は」

 アル兄様に助け出されてからの私は、ずっと幸せ者だ。頭を撫でていたアル兄様の手を取って、下ろす。そして、両手でぎゅっと包み込むように握り、

「アル兄様の妹になれて、本当に幸せよ。アル兄様の幸せを、願っています」
「ありがとう、リザ」

 照れたように微笑むアル兄様にヴィニー殿下が近付いて、ぽんっと肩に手を置いた。

 そして、アル兄様の耳元でなにかを呟いたと思ったら、アル兄様がバッと彼のほうに顔を向けると、パクパクと口を動かす。言葉にはなっていない。なにを言っているのかしら?

 アル兄様は片手で自分の顔を覆い、大きく息を吐くとヴィニー殿下に向けて小さくうなずいた。

 ヴィニー殿下は「ファイト」と小さく言葉を発してから、アル兄様の背中を軽く叩く。ヴィニー殿下は、アル兄様の手を握っていた私にも声を掛ける。

「リザ、精霊たちと一緒に出掛けない?」
「え、どちらに……?」
「魔塔! ひいおじいさまにも精霊たちのことを話さなくちゃ」
「あっ! そ、そうですね!」
「魔塔に行くなら、これも持っていって。ネックレスの図案を考えているときに浮かんだ魔法陣なんだけど、なんかちょっとうまくいかなくて。クリフ様に見てもらいたいものなんだ」

 私はパッとアル兄様の手を離す。そして、机に向かい何枚かの用紙を手にすると、くるくると巻いて引き出しから紐を取り出しきゅっと結んだ。その丸めた用紙をヴィニー殿下に差し出す。ヴィニー殿下は目を輝かせて、「それってこの前の?」とワクワクした表情でたずねた。

「そう。でも、ちょっとうまくいかなくて。どこを調整すれば良いのか聞いて欲しいんだ」
「わかった。僕も楽しみにしていたんだ、アルのコレ」
「あの、それは一体どんなものなのですか?」
「リザにはまだ秘密」

 口元で人差し指を立て、悪戯っぽく笑うアル兄様。ヴィニー殿下も同じような表情を浮かべている。首を傾げる私に、ヴィニー殿下がアル兄様から用紙を受け取り、

「それじゃあ、これは預かっていくね。行こうか、リザ」

 と、笑顔で言った。こくりとうなずいて、アル兄様にもう一度、「ネックレス、ありがとうございます!」とお礼を伝えてからアル兄様の部屋をあとにした。

 それから、ヴィニー殿下と一緒にマリアお母様の執務室まで歩き、魔塔に行く許可をもらってから魔塔に行くことになり、その準備で少し忙しかった。

 首元で揺れるネックレスに、なんだかくすぐったい気持ちになりながら出掛ける準備を進めた。
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