そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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4章

4章70話(370話)

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「小さいシェイドのことは置いといて。利害の一致で契約に応じてくれる、と考えても?」
「そうよぉ。ヴィンセントちゃんとシェイドの相性も良かったみたいだしねぇ」

 ソフィアさん、喋り方が元に戻った……? じっと彼女を見つめていると、ソフィアさんはその視線に気付いて、ウインクをひとつ。

「ソフィアさん以外のエルフも、精霊界に行けるのですか?」
「わたしを含めて数人ってくらいかなー。一応ね、決まりがあるのよぉ。試練に挑むとか、精霊と仲良くなれるとか……」

 指折り数えるのを見て、ヴィニー殿下の関心が試練に向いたようだった。目を輝かせて、それはどんな試練なのですか? とたずねる姿は年相応だ。

 ソフィアさんは目を丸くして後頭部に手を置く。

「そっちが気になるのねぇ……。まぁ、いろいろよ。一番大変だったのは、剣術だったかなぁ」
「……精霊界に行くのと、剣術はなにか繋がりがあるのですか?」

 あまりにも意外な試練で、思わず疑問が口から出た。ソフィアさんはうんうんとうなずいて、「そう思うわよねぇ?」と頬に手を添えて目を閉じ、しみじみと息を吐いた。

「あとはやっぱり……自分の役割を見失わないようにするのが一番の試練だったのかもしれないわぁ」
「自分の役割……」
「そう、生きとし生けるものすべて、役割を持っているのよぉ。その役割に気付くか気付かないかは、自分次第」

 頬に添えていた手を離し、人差し指をピンと立てて、ゆっくりと円を描くように動かす。

 すると、ソフィアさんの指先に魔力が集まっていくのがわかる。小さな渦を巻いて、指を振るとポンっと軽い音を立てて花が飛び出た。

「わたしは精霊界に用事がある人間を連れていくのが、役目だと思っているの」

 花をそっと撫でて、すっと私に向ける。少し戸惑ったけれど、その花を受け取り、「綺麗ですね」と微笑んだ。

「魔法で生み出した花だって、綺麗よね。もちろん、自然に生えている花だって、人に育てられている花だって綺麗だわ」
「……ソフィアさん?」
「あなたたちがなにを見て、なにを感じて、なにになりたいのか、真剣に考えなさい。人間の寿命は短いのだから」

 真剣な表情のソフィアさん。あまりにも真剣な視線を受けた。私とヴィニー殿下は顔を見合わせて、それからこくりとうなずいた。それを見たソフィアさんが、ふっと優しく表情を和らげる。

「――命は儚いものだから、大切に過ごしてね」

 そう言ったソフィアさんは、眩しそうに目元を細めて私たちを見ていた――。
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