そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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4章

4章62話(362話)

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 それからすぐに、ソフィアさんが戻ってきた。精霊たちの姿を見て目を丸くすると、すぐに表情を明るいものに変えて、

「良かったわねぇ」

 と心底ホッとしたように言葉をこぼす。

「はい。本当にありがとうございます、ソフィアさん」
「いやいや。わたしはあなたたちを連れてきただけ。それじゃあ、目的も果たしたし、帰ろうねぇ」

 すっと差し出された手を握る。ヴィニー殿下も。言われる前に目を閉じて、精霊界から私たちが住んでいる世界へと戻っていく。この感覚は、まだ慣れない。

「もう良いわよぉ。あー、やっぱり結構な時間経っちゃってるねぇ」

 ソフィアさんの声が聞こえて、目を開ける。辺りは真っ暗だった。

「もうこんな時間……?」
「今、何時だろう?」

 空を見上げると星が爛々らんらんと輝いていた。こそりと深夜という声が聞こえる。あの精霊界とこの世界の時間の差ってどのくらいあるのかしら? 待って、今、深夜って言った?

「ど、どうしましょう。深夜に家に帰ったことなんてありません……」
「精霊たちのことを知っているから、大丈夫だとは思うけど……」

 暗いと言っても月が出ていているからか、明るさを感じる。

 月の光を浴びて、ソルとルーナが目を閉じた。その身体が淡く光っているように見える。――月の女神が、ソルとルーナを祝福しているように感じた。

 きっと、私が知る月の女神ではないのだけど……。はらはらと涙を流し出したソルとルーナを、そっと抱きしめる。

「――もう居ないんだ」
「――でも、大丈夫」

 なにかを悟ったように、精霊たちが言葉を紡ぐ。器用に自分の涙を拭いて、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。

「ソルもルーナも、月の女神のことが大好きだったのね」
「そう」
「大好きだった」
「――でも――……」

 精霊たちは言葉を切り、空に浮かぶ月を見上げる。

「お別れ、しなきゃいけない」
「ソルとルーナは、エリザベスの精霊だから」

 ソルとルーナは私の腕からするりと抜け出し、真剣な表情で私を見上げる。それは、二年前の契約のときを思い出させた。

「太陽の属性を持つ者よ」
「月の属性を持つ者よ」
「太陽の精霊、ソル」
「月の精霊、ルーナ」

 私の瞳をじっと見つめて、ソルとルーナのおごそかな声が辺りに響く。

「契約者、エリザベス・アンダーソン」
「我が生涯をともに歩むことを誓わん」

 ソルが羽ばたき私の額に、ルーナがぴょんと高く飛んで私の頬にキスをした。精霊と契約するときにこんな風にキスをした記憶がある。

「――ありがとう、ソル、ルーナ……。ずっと一緒に居ようね」

 私が両腕を広げると、ソルとルーナが抱き着いてきた。

「……長く生きていたけれど、精霊のほうが契約するのは初めて見たわぁ……」
「契約者からのキス、じゃなくて精霊からのキスか……。なにか違いがあるんですか?」
「んー、まだ、教えられないかなぁ? せっかく再会できたんだもの。今はそれを喜びなさいねぇ」

 ヴィニー殿下とソフィアさんが話し合っている内容は、耳に届いていたけれど……今はただ、精霊たちの温もりを感じていたかった。
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