そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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4章

4章60話(360話)

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「さっきの女性ひとが、月の女神……」

 ヴィニー殿下が独り言のように呟く。私がこくりとうなずくと、「そっか」と小さく言葉を返す。そして、繋いでいた手を離して、私の頬に手を添える。

「ヴィニー殿下?」
「手が冷たかったから……冷えたのかと思って」

 ヴィニー殿下はそっと額と額をくっつけて、目を閉じた。ドキッと胸の鼓動が跳ねる。ドキドキと鼓動が早鐘を打つ。こんなに大きな音、ヴィニー殿下にも聞こえるんじゃ……? と考えていたら、ぽわっと身体中に温かさを感じた。

 静かに魔力を瞳へ移す。なにが起きているのだろう、と自分の身体を見てみると、ヴィニー殿下の魔力が流し込まれているのがわかった。

 彼の魔力は私の身体を優しく包み込むように流れ、温かくてホッとするような魔力だった。身体が温まったことで、思っていた以上に冷えていたのだと気付き、

「ありがとうございます、ヴィニー殿下」

 と、お礼を伝えた。

 ――その瞬間、「精霊たちには会えた?」と、ソフィアさんが戻ってきた。

 私たちは互いに顔を真っ赤にさせながら、身体を離した。顔を隠すように俯いて、首を左右に振る。

「……まだ、姿を見せません」

 ヴィニー殿下がこほんと咳払いをしてから答えると、ソフィアさんが「そっかぁ」と残念そうに肩をすくめる。ちらりとソフィアさんを見ると、にんまりとした笑みを浮かべて、

「それじゃあ、わたしはちょっと別の場所を探してみるねぇ」

 なんて楽しそうな声色でその場を離れる。

 私とヴィニー殿下は、そんなソフィアさんを見送り、彼に顔を向けるとヴィニー殿下も私に顔を向けていた。視線が交わって、またドキリと鼓動が跳ねる。

「リザ?」
「あ、えっと。……その、ソルもルーナも、魔力が足りなくなったから姿を見せないのでしょうか……?」

 自分の考えを口にすると、切ない気持ちになった。私にもっと魔力があったのなら……精霊たちが姿を消すことはなかったんじゃないかって考えてしまう。

「精霊たちの魔力をすべて使ったからね……」

 ヴィニー殿下が目を伏せる。そして、なにかを考えるように黙り込み、それから意を決したように顔を上げて、私を見つめる。

「……ひとつ、試してみたいことがあるんだけど」
「試してみたいこと、ですか?」

 こくりとうなずくヴィニー殿下に私はどんなことを試してみたいのかをたずねた。

「僕ときみの魔力を合わせてみない?」
「魔力を合わせる……?」
「そう。僕たち個人の魔力が足りないのなら、ふたりの魔力を合わせたらもしかしたら……って」

 個々の魔力ではなく、魔力を合わせる……。私は真剣な表情を浮かべてうなずいた。

「――やってみましょう」

 精霊たちを呼び戻す可能性があるのなら、どんなことでも試してみたい。

 ……でも、一方的な魔力の受け渡しは経験があるけれど、魔力を合わせるのはどうすればいいのかしら? とヴィニー殿下を見つめると、彼はほんの少し、頬を染めていた。首を傾げる私に、ヴィニー殿下は再び頬に手を伸ばして触れた。
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