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4章

4章53話(353話)

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「リザ?」
「あっ、えっと。不思議な巡り合わせだな、と考えていました」

 キョトンとした表情を見せるヴィニー殿下に、私は目を伏せた。本当に、不思議な巡り合わせだ。

 アル兄様に助けてもらった二年前。目の治療のために来てくださったヴィニー殿下と出逢い、シー兄様の誕生日パーティーのときには一緒に踊ってくれた。

 アカデミーの入学パーティーのときに、エスコートをしてくれたのもヴィニー殿下だ。こういう巡り合わせをなんて言うのだろう?

「ファロン家に居た頃は、あの家から出ることはないと思っていたから……、こんなに幸せな気持ちを持てるとは、思いもしませんでした」

 ファロン家で受けていた扱いを思い出すだけで、心の中にヒヤリとしたものを感じる。――それを溶かしてくれたのは――私を愛してくれる人たち。

「アルの巫子の力のおかげだね」
「……それだけではありません。みんなが、私のことを愛してくれたから、……私も愛することを知ったのです」

 誰かを思うだけで胸の中が温かくなる――そんな存在人たちが、救ってくれた。アンダーソン家の家族たち、リタたち、ジーンやディアたち……。そして、目の前にいる、ヴィニー殿下。

「――やはり、私は果報者です」

 確かな幸せを、感じ取っている。その想いを口にすると、言葉は甘さを含んでいた気がする。

 顔を上げて、真っ直ぐにヴィニー殿下を見つめて微笑む。

「そして、あなたに似合う淑女レディになりたい」

 ヴィニー殿下は一瞬目を大きく見開き、それからふっと表情を緩めた。

「今でも充分、素敵なレディだよ、きみは」
「ありがとうございます。でも、まだまだですわ」

 ――ああ、私、初めて心から『大人になりたい』と願えた。

 アンダーソン家の養女となり、公爵家の令嬢としての振る舞いをいろいろ教えてもらったし、なによりもたくさんの愛情を注いでくれた家族たち。ずっとその中にいたいと願ったときもある。

 ――でも、人は成長するものだから。

 ヴィニー殿下の隣に立っていても、胸を張れる私でいたい。

「学ぶことは、まだまだたくさんあります」
「それは僕にも言えることだなぁ。魔術の研究もまだまだやりたいし、この目で世界を見たい」
「私も、世界を見てみたいです。そして、最初に向かう場所は――」
「カナリーン王国、でしょ?」

 私の考えを読んだかのように、ヴィニー殿下が口角を上げ、片目を閉じる。こくりとうなずくと、「やっぱり」と嬉しそうに手を叩いた。

「あの地って魔力が満ちているから、僕もまた行ってみたいと思ったんだ」
「私は、月の女神がどれだけあの国を愛していたのかを、見てみたいと思いました」

 月の女神はカナリーン王国を愛していた。国そのものを愛していたのだろう。――もう一度、この目でカナリーン王国だったところを見てみたい。
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