そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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4章

4章52話(352話)

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「アンダーソン家は巫子の一族だから、本当は母が公爵になるはずだったらしいよ」
「王妃殿下のほうが巫子の力が強かったのですよね。……と言うことは、巫子の力で後継者が決まるから、アル兄様に決まっていたのですね」
「そう。アルが後継者なのは巫子の力が強いから。……長男が継いでも面白そうだとは思うけど」

 シー兄様のことを言っているのよね? こういう場合、長男が後継者になることが多いと思う。もしもシー兄様とエドだけだったら、長男であるシー兄様がアンダーソン公爵家を継いでいたのかもしれない。

「……あれ? ですが、そうなると……、ヴィニー殿下の場合はどうなるのですか?」

 確か、ヴィニー殿下はアル兄様よりも巫子の力を強く受け継いでいる。アンダーソン家の血筋でもあるのだから、ヴィニー殿下が継ぐ可能性もあった……? と困惑していると、ヴィニー殿下がひらひらと手を振った。

「アルのほうが向いてるよ。目の色だって、アンダーソン家の色だしね、アルは」

 確かに瞳の色はアル兄様がアンダーソン家の特徴を受け継いでいる。でも……ヴィニー殿下の紫色の瞳も、綺麗だと感じるわ。

 不思議な感覚。こんなに綺麗な人が、私の婚約者になっているなんて。

「それになにより……」
「なにより?」
「魔術バカの僕に、公爵なんて絶対無理!」

 きっぱりと、自信満々に言い切ったヴィニー殿下。思わず目を丸くしてしまい、それからふふっと笑ってしまった。だって、あまりにも自信に満ちた表情で言い切るのですもの!

「……うん、やっぱり笑っているほうが良いな。無理して笑うことはないけれど、きみには笑顔が似合うと思う」
「……ありがとうございます」

 いきなり、そんなことを言われて驚いた。頬が赤くなっているのを感じて、隠すように両手を頬に添えた。

「僕たちが婚約者になったことは、恐らく長期休暇が終えたらアカデミー全体に広がっていると思う。好奇の目で見られるかもしれない。ごめんね」
「どうしてヴィニー殿下が謝るのですか?」

 まさか謝られるとは思わなくて、ヴィニー殿下を見つめながら首を傾げた。すると、彼は眉を下げて微笑む。

「誰だって、好奇の目で見られるのは嫌だろう?」
「……それは、そうかもしれませんが……。……ヴィニー殿下、私は私の意志でヴィニー殿下の婚約者になることを決めました。だから、好奇の目で見られたとしても、堂々とした態度をとれますよ」

 頬に添えていた手を下ろし、胸元に置く。きっぱりとそう言うと、ヴィニー殿下は嬉しそうに目元を細めた。

「ありがとう。いろんな視線が向けられるだろうけど……、僕はきみ以外と結婚するつもりはないんだ」

 ――ヴィニー殿下の言葉に、動きを止めてしまった。

「アルが、きみを助けてくれて……本当に良かった。こういうのも巡り合わせって言うのかな?」

 巡り合わせ……。ふと、夢のことを思い出す。あの子は本当にヴィニー殿下だったのかな? どうして、私は……そんな夢を見たのかな?

 私にはアンダーソン家の血が流れていないのに……。これも、月の女神の生まれ変わりだからえたことなのかしら?
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