そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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4章

4章51話(351話)

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 ヴィニー殿下は小さく首を縦に動かした。

「他の国では知らないけれど、王族が生き残るための影だからね」
「王位継承権を手放しても、王族なことに変わりはないのでは……?」
「って言っても、僕の場合アンダーソン家の血のほうが強いからなぁ」

 肩をすくめるヴィニー殿下。確かにそうかもしれないけれど……。

「逆に兄たちは、陛下の血が濃いんだと思う。平和主義な僕にはついて行けないのさ」

 なんて、軽い口調で話すヴィニー殿下に、なんて声を掛けたら良いのかわからなくて、黙り込んでしまう。そんな私に対して、ヴィニー殿下は頬を掻いた。

「僕の婚約者になったことで、リザに大変な思いをさせるかもしれないけれど……」
「それは、私にも言えることです」

 緩やかに首を横に振り、真っ直ぐにヴィニー殿下を見つめる。彼は「じゃあ、お互い様と言うことで」と明るい声色で口にした。

 私はこくりとうなずいて、お茶を一口飲む。

「……美味しい。ヴィニー殿下は紅茶を淹れるのも得意なのですか?」
「得意というか、必然的に……? 休憩するときに良く淹れていたからね。魔塔では自分のことは自分でやるのが普通だったし、そこに関しては王族もなにも関係ないから、過ごしやすかったんだよね。巫子の力に関しても、研究材料ってだけで……」

 ……巫子の力が研究材料? 一体、魔塔でどんな風に過ごしてきたのかしら……? 私が知っているのは、アル兄様と一緒に魔術の研究をしていた、ということくらい。

「まさか巫子の力が強い者がふたりも生まれるとは思わなかっただろうから、王族もアンダーソン家もそれなりにパニックになったと思うよ」

 可笑しそうに目元を細めてくすくす笑うヴィニー殿下に、首を傾げた。パニック? と考えていると、ヴィニー殿下がアンダーソン家のことを話し出す。

「代々、一番巫子の力が強い者が公爵の座につくんだ。今なら叔母……いや、マリア・アンダーソンが公爵家の実権を握っている。表向きはジャック・アンダーソンが公爵だけどね」
「……お母様が仕事に追われていたのは、そういう理由があったのですね」
「そう。ジャック・アンダーソンは婿養子だからね。とはいえ、彼もすごい実績を持っているけどさ」
「お父様が?」

 ヴィニー殿下は楽しそうにうなずいた。お茶の入ったカップをテーブルに置き、私へと身体を向ける。

「そう。彼が若い頃の話なんだけれど、ダグラスの黄金獅子って呼ばれていたんだ」
「……待ってください、ダグラス? お父様、ダグラス家だったのですか!?」
「あれ、知らなかった? そうだよ。ダグラスの長男だったんだけど、叔母様に一目惚れをして、自分の両親を説き伏せて婿養子になったんだ。すごいよね、公爵家同士の結婚で揉め事が起きなかったのって」

 ……それほどまでに、お母様の隣に立ちたかったということかしら?

 そう言えば、お父様の実家のことに関しては聞いたことがなかったと、振り返る。公爵家の令嬢として覚えることが多く、お父様の実家のことまで頭が回らなかった。

 ダグラス公爵家――……王家に仕える騎士を何人も育て上げている家門だ。……ああ、だから騎士の知り合いが多かったのね。と少し納得してしまった。今度、お父様に聞いてみよう。
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