そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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4章

4章47話(347話)

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 わいわいと談笑を楽しんでいると、カタンとヴィニー殿下がフォークを置き、それから立ち上がり全員を見た。

「あの、ちょっと良いですか?」

 にこり、と微笑むヴィニー殿下。みんな手を止めて、彼に視線を集中させる。

「昨日、父上と母上から了承を得ました」

 一度言葉を切り、私の近くまで来てひざまずく姿に、これからなにが起こるのだろうとヴィニー殿下を見つめた。

 ヴィニー殿下はすっとふところからアミュレットを取り出した。ダイヤモンドで出来た指輪を見せて、照れたように頬を染めながらも私を見上げ、真剣な表情を浮かべるヴィニー殿下の姿を見て、小さく息をんだ。

「……これからの人生を、僕と共に歩んで欲しい。受け取ってくれますか?」

 私を見つめながら、言葉を紡ぐヴィニー殿下に、目を大きく見開いて、それから身体が震えた。どうして震えたのかわからない。でも――、その問いに、応える言葉はひとつしかなかった。

「――……はい」

 私が声を震わせながら答えると、ヴィニー殿下はホッとしたように息を吐いて、私の左手の薬指に指輪をめた。

 視線を交わして笑みを浮かべる私たちに対して、どこからか、パチパチと拍手が送られる。ヴィニー殿下は立ち上がり、すっと私の手を引いて立ち上がらせると、アンダーソン家のみんなに向けて一礼し、顔を上げた。

「……ずいぶん急に決めたね?」
「急、というわけではないよ。僕にとっては」

 アル兄様が肩をすくめながらヴィニー殿下を見つめる。じっと見つめるその瞳に浮かぶのは、疑惑。なにかを探るような言葉を発すると、ヴィニー殿下は小さく笑みを浮かべて、ぎゅっと私の手を握った。

「もしも、その婚約の理由が、リザに助けられたからなら、僕は認められないんだけど?」
「違うよ。……いや、それもあるけれど。それだけじゃない。彼女の前に向かう姿を見て、優しい心に触れて、惹かれていったんだ」

 真剣な表情で、アル兄様にそう言うヴィニー殿下。私は彼を見上げて、それからアル兄様に視線を向けた。アル兄様が、今度は私に問いかける。

「リザは? 本当にヴィーの婚約者になって、後悔しない?」
「はい、アル兄様。後悔しません。私は……ヴィニー殿下と、共に歩みたいのです」

 柔らかい笑みを浮かべて、本心からの言葉を伝える。すると、アル兄様はゆっくりと息を吐いて、それから満面の笑みを浮かべてくれた。

「それなら、僕も素直に祝福できる。ヴィー、僕の妹……リザのことを、よろしく頼むよ」
「もちろん」
「リザ、ヴィーが無茶しそうなときはめてやって」
「はいっ!」

 ヴィニー殿下が「ええ、なにそれ」と可笑おかしそうに笑い、段々と笑い声が大きくなる。

「と、なれば今日はヴィンセント殿下とリザの婚約記念日だな。このままパーティーと行こうじゃないか!」

 明るく祝福してくれるジャックお父様に、マリアお母様が口元を手で隠してくすくすと笑い、シー兄様とディアが拍手をしていて、なんだかくすぐったい気持ちになる。

 日が暮れるまでパーティーが続き、ヴィニー殿下を見送り自室に戻る。

 ヴィニー殿下と婚約したことは、その日のうちにアンダーソン邸の使用人たちにも広がり、みんなから祝福の言葉をもらった。

 私の幸せを願ってくれる人たちに、ありがとうとお礼の言葉を口にすると、なんだか胸の中が温かくなった。

 ――ソル、ルーナ、あなたたちに、この幸せな気持ちを話したい。

 窓辺から空を見上げて、そう思ったの。
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