そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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4章

4章45話(345話)

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 そしてそれから数日後、ヴィニー殿下から手紙が届いた。手紙の内容は簡潔に、『だいぶ回復したから、明日アンダーソン邸を訪れるね』というものだった。

 ヴィニー殿下、回復したのね。良かった。ホッと息を吐くと、手紙を持って来てくれたリタが声を掛けてきた。

「良いことが書いてありましたか?」
「ええ。ヴィニー殿下が明日、来てくださるみたい。用意をお願いできる?」
「かしこまりました」

 リタは胸元に手を置き微笑むと、頭を下げる。

 明日、ヴィニー殿下に会える。そう思うと、なんだか胸がドキドキしてきた。部屋から出て行くリタを見送り、そっと手紙の文字を指でなぞる。

「……お待ちしております、ヴィニー殿下」

 手紙をぎゅっと抱きしめて、丁寧に封筒に戻す。

 明日、会えたらいろいろなことを話せたら嬉しい。

 ――その日の夜、なかなか眠れなかった。

☆☆☆

 翌日、ヴィニー殿下は午前中に来る予定とのことだったので、早朝に起きてリタとタバサに頼んで身支度を整える。

「奥様から今日はお嬢様をとっても綺麗にするように、と仰せつかっております」
「ええ? お母様から?」

 リタがにこっと笑いながら教えてくれた。お母様、どうしてそんなことを言ったのかしら? 首を傾げている間に、お風呂の準備が整ったようで、髪と身体を洗ってもらった。

 いつもより時間を掛けて。ふわりと良い香りが鼻腔をくすぐり、「それは?」とたずねると、タバサが元気に「ヘアオイルです!」と答えてくれた。

「こんなに良い香りのするヘアオイル、私、持ってなかったよね?」
「奥様からのプレゼントですわ。薔薇のヘアオイルと聞きました」
「そうなんだ。本当に良い香りね」
「気に入りましたか?」
「ええ、とっても!」

 お風呂から上がり、髪を乾かす。そのときにもふわりと薔薇の香りが漂い、なんだかほんの少し、背伸びをしている気持ちになった。この香りが似合うのは、お母様のような大人の女性だろう。

 それを、どうして私に……?

 そんなことを考えていたら、リタが今日のドレスを用意してくれた。

 用意されたドレスは、青紫色のドレスで、紫色の糸で花の刺繍が模様されているもの。

 ヴィニー殿下の瞳の色だ。困惑しながらもリタに視線を向ける。リタとタバサは楽しそうに笑顔を浮かべていて、さらに困惑した。こんなドレスを持っていたっけ? とも考えてしまった。

 アカデミーに入学してからドレスは購入していないから、最後に購入したのはアカデミーに入学する前。そのときに買ったのは、暖色系のドレスが主だったから、この青紫色のドレスではなかった。

 ――いつ用意されたものなのだろう?

「ねえ、リタ、タバサ。私、このドレスを購入した記憶はないのだけど?」
「そうでしょうね。これは、お嬢様が寝込まれていたときに奥様が購入したものですから」
「えっ」

 ここでもお母様が関係しているとは思わなくて、変に高い声が出た。

「どうして……?」
「必要になるだろうから、としか教えていただけませんでした」
「……それが、今日だったのかしら?」
「恐らく……そうなのでしょう」

 お母様にはこのドレスを着た私の未来がえたのかしら? ドレスに着替えて髪を纏める。編み込みを纏めたスッキリとした髪型に、赤いリボン。薄く化粧もして、全身の姿が見えるように姿見に移動する。

「……相変わらずすごいわね」

 出来上がった姿は、自分でもびっくりするくらいに綺麗で、リタとタバサの手先の器用さがすごいなぁと感心した。
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