そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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4章

4章43話(343話)

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「正直に言うとね、どうしてそんなにわたくしに構ってくださるのかわからなかったの。アカデミーの入学パーティーのときにも迷惑を掛けてしまったし……」

 右手を頬に添えながら目元を細めるディア。入学パーティーのことを思い出しているのかもしれない。それから、喉を潤すためにカップに手を伸ばして一口こくりと飲む。

「――シリル様は、本当にお優しい人ね」
「ディア……」
「どうしてそんなに優しくしてくださるのか、わからないけれど……。シリル様に惹かれていると言ったら、リザはどう思う?」

 惹かれている。耳に届いた言葉にじっとディアを見つめた。ディアは少し恥ずかしそうに視線を右に逸らす。

「……シー兄様に、好意を抱いているって思っていい?」
「……そうね。きっと。彼と一緒にいると、嬉しくて、切ないの」

 カップを置いて、自身の胸元に右手を置き、顔を伏せるディアに、私は彼女の元に駆け寄り、空いている左手を握った。

「素敵なことよ。誰かを好きになることは、きっと」
「……ええ、きっと、そうよね。リザにも、そういう相手はいるわよね?」
「私?」

 好きな人、と考えて最初に浮かんだのは――……。自分の頬に熱が集まっていくのを感じる。ディアはちらりと私を見て、くすくすと笑った。

「お似合いだと思うわ」
「えっ?」

 誰を思い浮かべたのか、声に出していない。なのに、ディアがそんなことを言うから、変に高い声が出た。

「ヴィンセント殿下でしょう?」

 小首を傾げて、それでも確信を持っているように問われて、私は目を大きく見開く。その反応が図星を示していると気付いたけれど、ディアはそれ以上なにも言わなかった。ただ、一言、「いつから?」と聞かれて私はディアを見つめながら考えた。

「……わからないの。気が付いたら、という感じ」
「ふふ、わたくしもよ」
「……きっと、それでいいのよね?」
「ええ。きっと」

 私たちは微笑み合う。

 そう、きっとそれでいいの。恋心を自覚して、なんだか急に恥ずかしくなってきた。

「……ヴィンセント殿下の、どんなところに惹かれたの?」

 ディアに問われて考える。私がどうしてヴィニー殿下に惹かれたのかを。

 彼は最初から私に好意的だったし、いろいろなことを教えてくれた。いろいろなことを手伝ってくれたし、いつだって気遣ってくれた。

 ……あの日だって、ヴィニー殿下が力をくれたの。

「……気付いたら、助けられてばかりだわ……」

 ぽつりと言葉を呟くと、ディアはそっと手を伸ばして、私の頭を撫でた。

「……あの日の話?」

 緩やかに首を横に振る。

「それだけじゃないわ。私がアル兄様に助けられてから、ずっと。みんなが、私のことを助けてくれた」
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