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4章
4章40話(340話)
しおりを挟む「大切にしているつもりだけど……?」
目を瞬かせてカインを見つめると、彼は少し困ったように眉を下げた。
「以前から、考えていました。アカデミーで直接実母と対峙したこと、今回の件。お嬢さまにしか出来なかったことでしょう」
カインはすっと跪いて私を見上げる。その瞳を見て、心底私のことを心配してくれているのだと感じた。
「お嬢様が倒れたあとのことを、ご存知でしょうか?」
ふるり、と首を横に振る。そして、カインは淡々とした口調で話し始めた。
マリアお母様やジャックお父様が毎日見舞いに来てくれていたこと、シー兄様やアル兄様、エドが『早く良くなりますように』と祈りを捧げてくれていたこと。使用人たちも、私がいつ目覚めても良いように気遣ってくれていたこと……。カインの声が耳に届くたび
に、胸の鼓動が早くなることに気付いて、視線を落とした。
「お嬢様はとても愛されているのです」
「……私……」
「そのことを、ご自覚なさってください」
カインがじっと私を見つめる。噓偽りのない瞳だ。私が小さくうなずくと、ホッと安堵したように息を吐く。
「……愛されていると、知っていたわ」
「知ることと、自覚することは別でしょう。お嬢様が無理をすればするだけ、我々は心配するし、怖くなるのです」
「……怖く?」
カインは「ええ」とうなずいて立ち上がった。
「お嬢様を失うことは、怖いことですから」
「……ありがとう」
カインはすっと頭を下げた。びっくりしていると、カインは言葉を続ける。
「聞いてくださり、ありがとうございました」
「ううん、私のほうこそ……本当にありがとう」
無理や無茶をしていないかと言われたら、きっとしている。私にしか出来ないことだと思っていたから。
それに、私が終わらせないといけないと思っていたから……。だって、マザー・シャドウのことも、カナリーン王国のことも、その血を引く私がやることだと……そう信じていたの。
みんなの手を借りてやり遂げたこと。
「――あれ、リザ?」
腕に大量の花を抱えたシー兄様が声を掛けてきた。隣にはディアも居た。ディアは私のことを見ると、駆け寄って抱きついてきた。
「歩いていて平気なの?」
「大丈夫よ。寝過ぎちゃって、身体を動かしたかったの」
ディアが離れて、私の肩に両手を置いてじっくりと観察するように眺める。そっと頬に触れて、「本当に大丈夫?」と聞いてきたので、笑顔を浮かべてみせる。ディアは満足したのか、私の頬と肩から手を離して、シー兄様を振り返る。
「シリル様、中庭を案内してくださり、ありがとうございます。リザとお話がしたいのですか、よろしいでしょうか……?」
「もちろんですよ、クラウディア王女。それじゃあ、この花は飾っておきますね」
「お願いします」
ディアの声は弾んでいた。中庭の花をもらったようだ。シー兄様はカインに視線を向けて、「ふたりを頼む」と言ってから戻っていく。
「……夕暮れなので、冷えるでしょう。お嬢様の部屋でお話をするのはいかがでしょうか?」
カインの提案に、私とディアは同時にうなずいた。
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