そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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4章

4章39話(339話)

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 アンダーソン家に助けられて、正式に養女になり、公爵家の令嬢としての振る舞いを覚えることに集中していて、自分がなにを出来るのかを考えていなかった。

 私に出来ること……私にしか出来ないこと。それがどんなものなのか、まだわからない。いつか、見つけられたな良いな。

 自分の手のひらを見つめて、きゅっと握る。それと同時に、扉がノックされた。

「どうぞ、入って」

 そう声を掛けると、カチャリと扉が開き、カインが部屋に入って来た。カインは私の姿を見ると、リタに視線を向けた。リタが小さくうなずくのを見てから、私に手を差し出す。

「中庭の花が綺麗に咲いております。一緒に見に行きませんか?」
「ありがとう、ちょうど散歩がしたかったの」

 カインの手を取って立ち上がり、リタとタバサを部屋に残したまま、私とカインは歩き出した。後ろを振り返ると、ふたりとも「行ってらっしゃいませ」と頭を下げていた。

 部屋から出て中庭まで歩く。……私、どのくらいの時間寝ていたのだろう? 夕方になっている。

 中庭につくまで、カインはなにも話さなかった。中庭につき、綺麗に咲いている花を眺めていると、カインが口を開いた。

「――やはり、自分もついて行けばよかったと、考えていました」
「カイン……?」

 後悔しているような、沈んだ声だった。私は花からカインに視線を移して、それから緩やかに首を横に振る。

「私が寝込んだのは、私自身が未熟だったからよ?」
「それでも、魔物が現れたのでしょう? シリル様やアルフレッド様、先代の方々まで危険に……」
「……そうね、きっと危険だった」

 それでも、カインを連れていくという選択肢は私になかった。

 だって、カインにはリタとエルマーがいる。ふたりから、カインを取り上げたくなかったの。それだけは、したくなかった。

「……護衛のカインにこう言うのは、おかしいのかもしれないけれど、私は……カインに危険な目に遭って欲しくないの」
「お嬢様……」
「リタとエルマーと、幸せに暮らして欲しいのよ」

 にこりと微笑んでみせる。カインは少し、目を伏せて息を吐く。

「私はあなたたちが大好きなの。好きな人には、幸せになって欲しいと思うものでしょ?」

 こてんと首を傾げて、それから胸元に手を置く。アンダーソン邸で暮らす人々は、私にとって大切な『家族』だ。その『家族』の幸せを願うのは、きっと当たり前のことよね?

「万が一のことも考えて、カインにはこのアンダーソン邸を守って欲しかったし、ね」

 万が一私が失敗したら……。あの強大な魔力の柱がこの王都を襲ったら? 人々は無事ではいられなかっただろう。……まぁ、これも想像でしかないのだけど。

 私はあの光の柱を消し去ることに成功したから、想像でしかない。

「……それでも、やはり共に行けばよかったと思います」
「カイン……」
「お嬢様。我々を守っていただき、ありがとうございます。ですが、どうか……、ご自身のことを、大切にしてください」

 カインのその言葉は、少し意外だった。
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