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4章
4章38話(338話)
しおりを挟むあまりにもぴったりな動きで、ちょっと笑ってしまった。タバサがぐいっと身を乗り出してきて、目を丸くするとぴたっと額に手が置かれた。
「熱はなさそうですね。さっきまで、なんだか難しい表情を浮かべていたんですよ」
「……それはきっと夢のせいね……」
寝顔が見られていたと思うと恥ずかしい。タバサは手を離して少しだけ眉を下げて不安げに聞いてきた。
「恐ろしい夢だったんですか?」
「……恐ろしいというか、不思議な夢だったわ……」
夢の内容をハッキリと覚えている。……あれは、本当にヴィニー殿下だったのかしら?
黙り込んでしまった私に、リタとタバサが首を傾げたのが見えた。
ベッドから起き上がると、リタがショールを掛けてくれた。
「内容を覚えているのですか?」
「ええ。朧気だけどね」
内容を聞かれても困るので、曖昧にしておこう。タバサは残念そうに肩を落としていた。たぶん、ハッキリと覚えていると口にしたら早口でいろいろ尋ねてきただろう。目を輝かせながら。
「お嬢様、ジェリー嬢に手紙を届けてきました」
「ありがとう」
リタが優しくジェリーの様子を教えてくれた。リタが直接行ったからか、ブライト家の従業員に渡そうとしていたのを引き止められ、ジェリーはリタを屋敷に招き、リタと一緒にティータイムを過ごしたようだ。
「お嬢様のことをとても心配していましたよ」
「……そっか。手紙でも心配してくれていたのに……」
その心が嬉しい。きっと表情にも出ていたんだろう。リタとタバサが慈愛に満ちた視線を私に向けていた。……急に恥ずかしくなってきて、こほんとわざとらしく咳払いをすると、ベッドから抜け出す。
「お嬢様?」
「ずっとベッドの中に居たのだもの。少しくらい、身体を動かないと。屋敷の中を歩くくらいは良いでしょう?」
「……そうですね。では、少々お待ちください。歩きやすい服装にしましょう」
リタがそう言うと、タバサが歩きやすい靴とドレスワンピースを用意してくれた。着替えてからタバサが椅子に座らせて、赤いリボンで髪を纏めてくれた。編み込み、というらしい。鏡で後頭部を見せてくれたけれど、すごく綺麗に髪が編まれていて驚いた。
「器用ね……」
「器用さが取り柄ですから!」
腕を組んで自慢げに笑うタバサの姿に、私はふふっと思わず笑ってしまった。
「その器用さは祝福ね」
「えへへ、ありがとうございます」
今度は照れたように頬を赤く染めて、満面な笑みを浮かべるタバサ。人にはいろいろな個性があって、その個性を生かして仕事を選ぶ人もいる。
……それなら、私の個性はなんだろう……?
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