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4章
4章37話(337話)
しおりを挟むあてもなく彷徨い、今度はまた暗い場所に来た。そして、また泣いている声が聞こえた。暗い場所で泣く子どもの声。……とは言っても、子どもは声を押し殺して泣いていて、時折我慢できずに声が出ているようだった。
――その泣き方を、知っている。
子どもの姿がはっきりと見えてきた。私の存在に気付いたのか、子どもが恐る恐ると言うように顔を上げた。銀色の髪が揺れて、黄金の瞳が私の姿を捉える。そして、ハッとしたように左側の顔を隠した。
……『私』だ。
「……どうしたの?」
自分で自分に問いかけるのは、少し滑稽かもしれない。出来るだけ、優しく微笑む。幼い……三歳くらいの『私』は、じっと私の姿を見つめていた。そして、口を開く。
「……こわかったの」
「そうね」
炎に皮膚が焼かれる感覚を、今でも覚えている。きっと一生忘れることはないだろう。
「ジュリーを守ったことに、こうかいはしていないの。だって、私は『おねえちゃん』だもの」
双子の姉として生まれた――つもりだった。二年前までは、そう信じていた。真実を知った今となっては、なんとも言えない気持ちになる。それでも、彼女たちは私の異母妹であることに変わりない。
「……でも、どうして私だけこうなっちゃったんだろう?」
……これから、ファロン家はどんどんと『私』を蔑ろにして、孤立していく。そのことを思うと、胸がズキンと痛んだ。
すっと『私』に手を差し出す。右目を丸くする彼女に、声を掛けた。
「顔を隠さなくて良いわ。私は、すべてを知っているから」
「すべて?」
「そうよ、ジェリー・ファロン。私は、あなたをよーく知っているの」
だって、私だもの。過去の記憶なのかな、この夢は。でも、私とヴィニー殿下はこの時期に会っていなかったと思う。
それとも、私が作り上げた幻影なのかしら?
少し迷ったようだったけれど、『私』は差し出された手を掴んだ。きゅっと優しく握ると、驚いたように私を見上げ、それから左側の顔を隠していた手を下ろした。
「どうして知っているの?」
「どうしてかしらね? でもね、これだけは言えるの。――あなたは幸せになれるよ」
「……しあわせ?」
「そうよ、幸せ。その幸せに辿りつくまで、まだまだ時間はかかるけれど……。諦めないで、その時期が来るまで、待っていてね」
そう言うと、泣いていた子は「本当に?」と疑うように私を見る。それはそうだろう。
「本当よ。十三歳になったら、運命が動き出すの」
――そう、あの日、アル兄様に助け出されてから、私の運命は回り出したと思う。今でも不思議なことだけど、あの日、アル兄様がファロン家に来てくれたことがきっかけで、いろいろなことが廻り始めた。
それを運命と言わずにして、なんと言えば良いのかわからない。
「……そっかぁ……」
ホッとしたような声だった。そして、くいっと私の手を引っ張る。
「ジェリー?」
「――しあわせに、なれたんだね」
ざぁ、と『私』の姿が変わる。私よりも背が高く、火傷もなく……、ふわりと花が綻ぶように微笑むその姿を見て、私は息を呑む。
「――あの子たちは、精霊界に居るわ。魔力を使い果たしてしまったから、精霊界で魔力を蓄えているの。あとで迎えに行ってあげて」
そう言って、彼女の姿は消えていった。それと同時に、意識が浮上するのを感じた。
目を開けると、リタとタバサが傍に居てくれたことがわかり、彼女たちに声を掛けると、ふたりは同時にばっと私を見た。
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