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4章
4章32話(332話)
しおりを挟むドキリ、と鼓動が跳ねた。確かに、目が覚めてソルとルーナが傍にいたら、一緒に顔を見せただろう。……お母様は、私の思考パターンを読めるのかしら? と思わず凝視してしまった。
その視線に気付いたお母様が、くすりと微笑む。
「エリザベスの思考を読んだように思えた?」
こくり、とうなずく。すると、お母様は口元を隠すように添えて楽しそうに「ふふ」と声に出して笑った。
「わたくしはあなたの母親ですもの」
その一言を聞いて、とても不思議な感じがした。
二年前にアンダーソン家の養女になり、アカデミーの寮に入るまで共に過ごした日々を思い出す。ファロン家にいた時間のほうが長いはずなのに、『お母様』、『お父様』と呼べば返事をしてくれる両親、優しい兄たちに可愛い弟。親切な使用人たち……。すべて、あの頃の私には分不相応なものだと思っていた。……それでも、お母様たちは私がアンダーソン家の一員として胸を張れるまで支えて、守ってくださった。
ファロン家では、三歳の頃から与えられなかった『家族の愛情』を注いでくれた今の家族たち。
「……私は本当に、果報者ですね」
「あら。エリザベス。あなたの人生は、まだまだこれからよ?」
お母様がそう言って目元を細める。愛しそうに見つめられて、なんだかくすぐったい気持ちになった。
そんな会話をしていると、アンダーソン邸についた。私たちが帰ってきたことを知ると、ジャックお父様とアル兄様が出迎えに来てくれた。
「おかえり、お母様、リザ! ヴィーは目覚めた?」
「おかえり。こら、アル。気持ちはわかるが、リザも目覚めたばかりなのだから、休ませてあげなさい」
嗜めるようにお父様がアル兄様に声を掛けると、アル兄様は「気になって……」と眉を下げた。
「私は大丈夫です、お父様。アル兄様、ヴィニー殿下は目覚めたわ」
「……そっか。……そっかぁ……良かった……」
そのまま床に膝をついて、アル兄様は深く息を吐いた。それから、すぐに立ち上がると、私に向けて微笑みを浮かべる。
「それが聞けて良かった。それじゃあ、リザ。ゆっくり休むんだよ」
そう言って、アル兄様は軽く手を振って去って行く。その背中を見つめながら首を傾げていると、お母様がそっと私の肩に手を置いた。
「まだアカデミーの休暇期間だから、今のうちにしっかりと休まないと。外出して疲れたでしょう?」
「……そうですね。なんだか、……気が抜けたら、眠くなってきました」
目覚めたとはいえ、魔力はまだ完璧には戻っていないのを感じる。ヴィニー殿下も無事に目覚めたからか、光の柱を消せたからか、張り詰めていた気持ちが一気に抜けて、身体が休息を求めているように思えた。
「それじゃあ、リザの部屋まで抱っこしてやろう」
ひょい、とお父様が私を抱き上げてくれた。
お父様とお母様は私を自室まで送ると、「またあとでね」と声を掛けて部屋から出て行った。リタが着替えさせてくれて、私はベッドに潜り込んで目を閉じた。
――まだ、解決しないといけないことがあるけれど……とても眠くて。目覚めたら考えよう。
意識が沈むのは早かった。自分の身体の欲求に任せて、眠り続ける。
その後、意識が浮上したのは翌日の昼間で、一体何時間寝たのだろうか? 帰ってきたのは何時ごろだった? こんなに眠るなんて……やっぱりまだ本調子じゃないのね……と、とても驚いた。
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