そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

4章

4章31話（331話）

　扉を開けると、お母様とクリフ様が私を静かに見つめた。満面の笑みをふたりに向け、

「ヴィニー殿下が目覚めました！」

　と明るい声色で伝えると、クリフ様はカッと目を見開き、それからヴィニー殿下の元に駆け寄り、その身体をぎゅっと抱きしめた。お母様はそっと私の肩に手を置く。

　お母様を見上げると、安堵したように微笑んでいた。

「心配かけよって……！」

　涙声でぎゅうぎゅうとヴィニー殿下を抱きしめているクリフ様。ヴィニー殿下はきょとんとした表情を浮かべていたけれど、すぐに嬉しそうに目元を緩ませ、クリフ様の背中に腕を回した。

「心配をおかけしてすみません、ひいおじいさま」
「まったくじゃ！」

　お母様が私の肩から手を離し、ヴィニー殿下に近付き、クリフ様の背中に回っている手に触れる。

「おかえりなさい、ヴィンセント殿下。……あの子を、エリザベスを支えていただき、本当にありがとうございます」

　柔らかく優しい口調でヴィニー殿下に声を掛けるお母様。ヴィニー殿下がお母様を見上げると、「おばさま……」と驚いたように呟く。

「僕は、僕がしたいことをしただけです」

　お礼を言われたことに対し、そう言うヴィニー殿下。お母様はぽんぽん、と優しくヴィニー殿下の手に触れて、緩やかに首を横に振った。

「エリザベスが助かったのは、あなたのおかげですから。今は、ゆっくり休んでくださいね」

　触れていた手を離し、代わりに頭を撫でるお母様。ヴィニー殿下は目を見開いて、それから小さくうなずいた。私がお母様に近付くと、そっと背中に手を添えてくれた。

「エリザベスも、目覚めたばかりだから今日は帰りましょう」
「はい、お母様。お大事に、ヴィニー殿下」

　カーテシーをして挨拶をすると、「きみもね」とクリフ様に抱きしめられたまま手を振るヴィニー殿下。

　少し名残惜しかったけれど、私の魔力はまだ全回復をしたわけではないみたい。

　お母様と一緒に、魔塔をあとにした。そして、帰りの馬車に乗ると、お母様が真剣な表情で私を見た。あまりにも真剣な表情だったので、ドキドキしながらお母様の言葉を待つ。

「……さて、これから数日、エリザベスの魔力が回復するまでは、自室からあまり出ないこと」
「えっ？」
「食事も自室に運ぶから、そこで食べなさい。良いわね？」
「は、はい」
「護衛にはカインがつきます。……精霊たちを、呼び出せないのでしょう？」
「っ！」

　思わず息を呑のんだ。どうしてそのことを知っているのだろう？　とお母様をじっと見ると、お母様は肩をすくめた。

「呼び出せるのなら、一緒に顔を見せたでしょうから」