そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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4章

4章30話(330話)

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 ヴィニー殿下の話を聞いて、私は目を丸くした。

「……そんなことが、可能なのですか?」
「可能だから、きみに魔力を与えられたんだよ」

 ふふ、と笑うヴィニー殿下に、あのときのことを思い出す。確かにヴィニー殿下の魔力は私の魔力によく馴染み、心強かった。……違うわね、ヴィニー殿下が傍に居てくれた。それがとても――心の支えになった、が正解かもしれない。

 そっと胸元に手を置いて、目を伏せる。

「リザ。浄化の火はまだ使えそう?」
「……試してみます」

 あのときの感覚を思い出しながら、手のひらを上に向けて試す。するとぽぅ、と淡く輝く蒼い火が浮かび上がった。――使えるんだ、と自分で驚いた。

「……使えたね」
「……使えましたね」

 魔力の操作をやめると、すぐに火は消えた。ヴィニー殿下は微笑んで、私を見つめる。

「それはきっと、きみにしか使えない、きみだけの魔法だ」
「……私、だけの……」

 きゅっと拳を握って、ゆっくりと言葉を紡ぐ。なんだか不思議な感じだわ。ヴィニー殿下がふと私の首元に視線を向けて、ペンダントをつけていないことに気付き、

「アミュレットは壊れちゃった?」

 首を傾げて尋ねた。小さくうなずくと、「そっか。だからほんの少し魔力が残っていたのかな」と口元に手を当てて考え出した。

「――そういえば、秘薬の小瓶ってまだある?」
「あ、あります。これです」

 小瓶を手渡すと、ヴィニー殿下は興味津々に持ち上げ、中を確認するように片目を閉じて見つめる。

「これを解析するにはカーラの力が必要かなぁ」
「ヴィニー殿下、絶対に口にしないでくださいね。私が口をつけていますし、それに――」

 ……『血の記憶』で見たことを説明するときに、秘薬のことは口にしなかった。それを説明するのは、気恥ずかしさが勝ったから。

 でも、このままだとヴィニー殿下は残った数滴の秘薬を飲みそうだから、慌てて止めた。

「それに?」
「……その、秘薬の使い方が……」

 私が小声で秘薬の使い方を説明すると、ヴィニー殿下の顔が真っ赤になった。……私の顔も真っ赤になっていると思う。だって、頬が熱いもの……。

 黙り込む私たち。その静寂を破ったのは、ノックの音だった。

 びくっと肩を跳ね上げさせる私とヴィニー殿下。互いに顔を見合わせて、眉を下げて笑い合った。

「マリアお母様とクリフ様に待ってもらっていたんです。クリフ様、ずっとヴィニー殿下の傍から離れなかったそうですよ」
「――クリフ様が?」

 意外そうに目を丸くするヴィニー殿下に、私は笑みを浮かべて扉へ近付いた。
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