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4章
4章27話(327話)
しおりを挟むふたりの温かな手を感じながら、私はふたりを見上げて眉を下げて尋(たず)ねた。
「ヴィニー殿下は、まだ……?」
アル兄様は目を伏せ、唇を噛み締めてこくりとうなずいた。そして、口を開いた。
「……うん、まだ目覚めていない。ひいおじいさまが傍についているよ」
アル兄様の声が震えていた。それでも、私を安心させようと肩に手を置いて微笑んだ。……アル兄様も、ヴィニー殿下のことが心配なのね。
「……ヴィニー殿下に、会いに行っても良いですか?」
ふたりを交互に見ると、息を呑む音が聞こえた。
「聞いて来るよ。今すぐに、行きたいんだろう?」
シー兄様がポンと私の頭に手を置いて、くしゃりと撫でた。
「ありがとうございます、シー兄様」
「うん、ちょっと待っていて」
そう言ってシー兄様はアル兄様の部屋から出て行く。パタン、と扉が閉まる音が耳に届いた。
アル兄様は私から離れて、机の引き出しから小瓶を取り出した。『血の記憶』で見た小瓶だ。
「……リザ、これを」
「……ありがとうございます、アル兄様」
両手でしっかりと秘薬を受け取り、ぎゅっと握りしめる。冷たい小瓶が、私の体温で温かくなるのを感じながらシー兄様を待っていると、扉がノックされた。
「はい、どうぞ」
扉が開き、入って来たのはマリアお母様だった。
「お母様……」
「魔塔に向かうのでしょう? わたくしも一緒に行くわ」
きっとマリアお母様もヴィニー殿下のことが心配なのだろう。私は「はい」と大きくうなずいて、魔塔に向かう準備をした。
お母様と一緒に玄関まで向かい、用意された馬車に乗り込む。御者はシー兄様だった。
馬車を走らせて魔塔に向かうまでの間に、ハッと気付いた。首元に手を置くと、いつもつけていたペンダントの感触がない。
「……アミュレットはすべて、壊れてしまったの」
思わず顔を上げると、お母様が眉を下げながら私を見ていた。
「すべて……?」
「ええ、エリザベスが作ったものも、ヴィンセント殿下が作ったものも。すべてが壊れていたわ」
――ああ、だからアル兄様もシー兄様も、アミュレットを身に付けていなかったのね。
それでも、ふたりは無事だった。アミュレットが少しでも、彼らの役に立てたのなら良かった。
「……また、作らなきゃ」
「魔力が完璧に回復してからね」
肩をすくめてみせるお母様に、私は「はい」と返事をした。……それにしても、いつも首元にあったペンダントがないと、変な感じがするわね、と首元を擦り、ゆっくりと息を吐く。
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