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4章
4章26話(326話)
しおりを挟むハンフリーさんは小瓶を揺らしてから、アル兄様の前に立つ。その表情は真剣そのものだ。
アル兄様は困惑しているようだった。そして、じっと小瓶を見つめる。
『つまり、リザとヴィーが想いあっていないとダメってこと?』
首を傾げるアル兄様に、ハンフリーさんは小さくうなずいた。シー兄様が私とヴィニー殿下を交互に見て、それからハンフリーさんに視線を向けた。
そっと、アル兄様が手を伸ばす。
『……使うかどうかはリザに任せる。だから、その秘薬をください』
『……そうだね、使うかどうかは彼女が決めるべきだ』
小瓶をアル兄様の手に乗せるハンフリーさん。アル兄様は、不思議そうに小瓶に入っている液体を眺める。
ハンフリーさんは小瓶を渡すと、横たわっている私の傍に来て、静かにしゃがみ込んだ。そして、私の髪を一部持ち上げると、そっと唇を落した。――少し、寂しそうに微笑むと、
『……さようなら、めーちゃん。幸せになってね』
と言うと、すくっと立ち上がり、旅芸人たちとその場を去って行った。
『……なんというか、不思議な人たちだったな……。助けてくれたのはありがたいけれど』
『……うん。これの話も本当かどうかわからないけれど……。とりあえず、このままふたりを地面に横にさせているわけにもいかないし、――帰ろう、アンダーソン邸に』
光の柱は消え、シー兄様が空を見上げる。――雲ひとつない、晴天が広がっていた。
『おじいさま、ヴィーをお願いできますか』
ひょいとシー兄様が私を抱き上げた。近くにいるブランドン様に声を掛けると、『おう、任せろ!』とブランドン様がヴィニー殿下を抱き上げた。馬車に乗せ、そのままアンダーソン邸に帰ることになったようで、次の場面に切り替わる。
それぞれ、ジェリーはブライト家、ジュリーは城の塔、ディアはアンダーソン邸の客間に送られた。そのあとすぐに、ブランドン様とアミーリア様は出発したらしい。少しはゆっくりしていければ良いのに、とマリアお母様が頬に手を添えて小さく呟いていた。
『とりあえず、リザは自室に。ヴィーは……』
『魔塔だろうな』
ジャックお父様が『送ってくる』とヴィニー殿下と共に魔塔に向かい、私はリタとタバ
サに預けられた。それから、気が付けば私はずっと自室で眠っていた。
キィ、と扉が開き誰かが入って来た。シー兄様とアル兄様だった。
ふたりは私の顔を見つめ、そっと私の頬に手を伸ばしてホッとしたように息を吐くシー兄様。
『早く目覚めてくれ、リザ……』
『ずっと待っているからね』
アル兄様は私の手をぎゅっと握って、祈るように呟いた。
――そこで、『血の記憶』は途切れた。
パチン、という指を鳴らす音に、意識が現実に戻ってきた。
「――シー兄様、アル兄様、私が目覚めるのを、待っていてくれたんですね……」
私はシー兄様とアル兄様に顔を向けて、笑みを浮かべるとふたりに抱きついた。――心配してくれる人がいる。そのことが、とても嬉しくて……。ふたりは一瞬戸惑ったように身体を強張らせたけれど、すぐに力を抜いて、私の頭を撫でてくれた。
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