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4章
4章25話(325話)
しおりを挟むミネストローネを食べ終えるのを見てから、アル兄様が立ち上がり私に近付いた。
「リザ、僕の部屋に来てくれる? シリル兄様も」
「は、はい」
「いいよ」
手を差し出すアル兄様。私はその手を取って立ち上がる。アル兄様とシー兄様と一緒に歩き出す。……アル兄様の部屋に入るのは、久しぶりだ。
「どうぞ。散らかっているけど」
……確かに散らかっていた。珍しい。いつもはこんなに散らかってないから驚いた。
「アル兄様、魔術の研究ですか?」
「似たようなものかな? シリル兄様、血を一滴ください。『血の記憶』であのときのことを見せるので」
「はいはい」
すっとシー兄様が左手の人差し指に針を刺し、アル兄様が慌てて魔法陣の上に血を垂ら
した。パチン、と指を鳴らすアル兄様。血の記憶を見るときの感覚は覚えているけれど、そのときに感じたものとはまた違うような気がして驚いた。
そして、血の記憶で再現された一週間前のことを知り、私は目を見開いた。
落下した私とヴィニー殿下を助けたのは、ハンフリーさんだったのだ。旅芸人たちが力を合わせて、助けてくれたみたい。シー兄様の視点だから、少し遠い。魔物を倒し、私たちの元に駆け寄ると、アル兄様が気を失った私たちに声を掛けていた。
『リザ! ヴィー!』
必死に声を掛けるアル兄様。それでも、私たちの顔色は青白く、呼吸も浅かった。ハンフリーさんは私をアル兄様に、ヴィニー殿下をシー兄様に預ける。
『めーちゃん……いや、エリザベス嬢とこっちの人は、魔力を使い果たしたみたいだね。魔力が回復すればエリザベス嬢は目覚めるだろうけど、こっちはどうかな……?』
と、ハンフリーさんがヴィニー殿下を見つめる。ヴィニー殿下はぐったりとしていて、私よりも顔色が青白かった。
『どういう意味だ?』
シー兄様がハンフリーさんに尋ねる。ハンフリーさんはちらりとシー兄様に視線を向けてから、もう一度ヴィニー殿下を見る。
『この人は、エリザベス嬢のことを守ろうとしたんだよ。自身の魔力を彼女に注ぐことで、彼の魔力は空っぽだ。エリザベス嬢には僅かに魔力が残ってる。……精霊たちの姿もない……。魔力をすべて使い、姿が保てなくなったみたいだね』
ハンフリーさんはそう言いながら、ゴソゴソと胸元のポケットから小瓶を取り出した。
『それは?』
アル兄様が問う。ハンフリーさんは『秘薬さ』と笑顔を浮かべた。
『秘薬?』
シー兄様がハンフリーさんの手元にある小瓶を眺めながら、首を傾げる。
『そう。正しく使えば魔力は全回復。間違ったらふたりとも命を落とす』
ハンフリーさんは眉を下げて使い方を説明した。
『使い方は簡単。男女が口移しで飲ませる。口に含んだときに魔力を移すんだ。それを飲み込むことで、相手は魔力を回復できる。ただし、互いに愛し合っていることが助かる条件。……この状態だと、エリザベス嬢が彼に飲ませることになるだろうね』
ちらりとヴィニー殿下に視線を向ける。アル兄様とシー兄様は驚いたように目を見開く。私も驚いて、口元に手を当てた。
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