そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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4章

4章16話(316話)

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「それって普通のことなのですか?」

 ディアが困惑の表情を浮かべながらたずねる。それに答えたのはシー兄様だった。シー兄様はアル兄様を見て、それから肩に置いた手を離す。

「いや、普通のことではないかな」
「僕らには普通のことなんだけどね……」

 肩をすくめるアル兄様に、私たちはそれぞれ顔を見合わせて曖昧あいまいに微笑んだ。

 そして、それから三十分もしないうちにヴィニー殿下が戻ってきた。

 ――ジュリーと一緒に。

 ジュリーは私たちを見て、びくりと肩を震わせる。……以前のような自信に満ち溢れている姿ではなく、やせ細ってガリガリになっていた。

「念のため伝えておくけど、……マザー・シャドウの洗脳は解けているよ」

 ヴィニー殿下が静かにそう言った。彼のジュリーを見る瞳に、同情の色が見て取れた。塔に閉じ込められて以来、会うことのなかった異母妹は、すっかりと変わったようだった。

「ジュリー……なの……?」

 本当にジュリーなの……? と思わず驚いたような声が出た。彼女は私を見て、「……お姉様……」と、力なく呟く。耳に届いたその声は、確かにジュリーのもので……、別人のようになった彼女を見て、心底驚いた。

「よく塔から連れ出せたね」

 アル兄様がヴィニー殿下に近付きながら声を掛ける。確かに、あれから三十分も経っていないのによくここまで……と考えていると、ヴィニー殿下は右手を腰に当てて、左手の人差し指を立てた。

「国が滅ぶかもしれないって説得したよ」
「それは……ヴィーが言ったら効果的だろうね……」

 国が滅ぶ未来を視た、とヴィニー殿下が言えば説得力があるわね。国を滅ぼすか、守るかの二択で、陛下は守るほうを選んだ。

「ジュリー嬢は、ある日から憑き物が落ちたかのようにこうなったみたいだよ。……まぁ、絶対あの日からだと思うけど」

 ヴィニー殿下の言う『あの日』は、きっと私が――いいえ、月の女神がマザー・シャドウの魂を蒼い炎で包んだ日のことを指しているだろう。あの日から、アカデミーに満ちていたマザー・シャドウの魔力も消え去ったから……、恐らく、ジュリーが影響を受けていた彼女の魔力も消えたのだろう。

 そして、洗脳が解けたことにより、自身がなにをやっていたのかを自覚して、放心状態になっていた可能性が強い。

 そう思考を巡らせていると、扉がノックされた。

「どうぞ」

 私の返事を聞いてから、扉が開いた。ブランドン様とアミーリア様が入って来た。広めの部屋とはいえ、ここまで人数が多いと狭く感じるものね……と頬を掻いた。

「勢ぞろいだな、みんな」
「ごきげんよう。いい天気ね」

 私たちの顔をそれぞれ見ながら、アミーリア様が笑顔で挨拶をした。私たちも挨拶をすると、アミーリア様はジュリーを見て、近付いた。
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