そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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4章

4章13話(313話)

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 数分も経たないうちに、ジェリーが温かいお茶を持って来てくれた。「ありがとう」とカップを受け取り、息を吹きかけて冷ましてから一口お茶を飲む。温かさがじんわりと身体に広がっていく感じがした。

 温かいものを口にしたからかな? なんだか身体の力が抜けていく気がした。ゆっくりと深呼吸を繰り返す。

「……どうしたの? コレ……」

 ディアが紙に気付いて指さした。私は「読んでも構わないよ」と言ってから、お茶を飲む。ディアは少し迷うように視線を動かしたけれど、興味が勝ったのか紙を手に取って視線を落とした。そして、「えっ」と声を上げて目を大きく見開く。

 ジェリーはそんなディアの様子に首を傾げ、彼女の手元を覗き込んだ。そして、彼女と同じように目を大きく見開く。

「……これって……」

 ジェリーとディアが私を見る。私は小さく眉を下げた。

「夢の内容だから、本当かどうかはわからないけどね」

 と微笑むと、ディアはもう一度紙に視線を落して、考えるように黙り込んだ。

「ディア?」
「……この内容、アルフレッド様とヴィンセント殿下にも知らせたほうが良いのでは……?」

「どうして、そう思うの?」
「巫子の力を受け継いだ彼らなら、なにかわかるかもしれません」

 ……私は少し悩んだ。夢の内容が本当かどうかはわからない。わからない……けれど、これは、私ひとりで抱えられる問題ではないだろうと結論付けて、アル兄様とヴィニー殿下に話すことを決意した。

「……あ、でもその前に……、着替えていいかしら?」
「……そうね。そうしましょう」
「リザ姉様の服は、私が選んでも良いですか?」
「ええ、お願いするわ」

 ジェリーは「はいっ」と元気よく返事をした。彼女が服を選んでいるうちに、簡単に身支度を整えよう。

「ちょっと待っていてね」

 と、ディアが部屋の外に出て、次に戻って来たときにはボウルを持って来て、魔法でそこに水を入れた。

「ありがとう、ディア」
「ううん、はい、これ」

 タオルも渡してもらった。ボウルの中に手を入れてみると、ちょうど良い温度だった。ぱしゃぱしゃと軽い音を立てて顔を洗い、タオルで拭く。ディアは私の髪に香油を塗っていた。

 化粧水なども持って来ていたから、簡単にスキンケアを終わらせるのと同時に、ジェリーが服を選び終わったようだ。

「この濃紺のワンピースはどうですか?」
「うん、ありがとう。着替えるね」

 自分が選んだワンピースを私が着ることがすごく嬉しいのか、ジェリーはニコニコと微笑んでいた。

 ワンピースに袖を通し、ディアは髪を弄っていたようで、いつの間にか編み込みにされていた。

「やっぱりリボンは赤よね」
「アンダーソン家の色ですものね」

 ディアとジェリーにそう言っているのが聞こえて、小さく笑ってしまった。

 そうして私は身支度を終え、アル兄様とヴィニー殿下に話すために彼らを探しに行こうとした。

 私たちが部屋から出ると、扉の近くにふたりがいてびっくりよ。

「……おはよう、リザ。クラウディア王女とジェリー嬢も」
「お、おはようございます……」

 私たちが声を揃えてそう言うと、ふたりはにこりと微笑んだ。
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