そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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4章

4章12話(312話)

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 泣かなかったジェリーの魔力はまだ全身に届いていない。むしろ、魔力が高いからか、別の場所に向かおうとしていたように見える。それをそっと、月の女神が魔力を制し、ようやく泣けるようになった頃には、私とジェリーは入れ替わっていた。

 そして、ジュリーがあんなにもマザー・シャドウに洗脳されたのも、魔力が高かったからだ。マザー・シャドウの洗脳は、魔力が高い人にとってじわじわと内側からむしばんでいくようなものだったみたいね。

「あなたたちは、私のせいで呪いに掛けられたようなものよ。私が人間を愛し、役割を捨てたから……。最高神は、情けをくださったの。魂をわけることで、それぞれの業が軽くなるように……」

 月の女神がそっと私に抱きついてきた。……私たちは『簡単に幸せになれない』という呪いを受けていたのだろうか……?

 ……確かに、生まれてからの十三年間はあまり幸せとは言えなかった。そして、ジュリーとジェリーも、幸せとは縁遠いことが起きた。

「……ごめんなさい、私の業を、あなたたちに背負わせて」

 謝る月の女神に、私はゆっくりと首を左右に振る。

「……あのことがなければ、出逢えなかった人たちがいるから」
「……そう。……そうね。人と人の出逢いは奇跡だもの」

 過去を思い出しているのか、彼女の口元は笑みを浮かべていた。

 そして、そっと離れて私の頬を撫でると柔らかい光が満ち――目を開けると、見慣れない天井が視界に入って来た。

「……さっきのは……夢……?」

 夢にしてはあまりにも……。そして、自分がどうしてベッドで横になっているのかを思い出し、私は頬に熱が集まるのを感じた。ヴィニー殿下に抱きしめられまま泣きつかれ眠ってしまうなんて……!

 少しの間落ち着かなかった。ふと、夢の内容が脳裏によみがえり、この夢の内容は覚えておくべきだと咄嗟とっさに考えて、持って来ていた荷物の中から紙とペンを取り出して紙に書き出した。

 私がなにかをしている音を感じ取ったのか、扉がノックされた。

「どうぞ」

 と声を掛けると、ディアとジェリーが顔を覗かせた。私が起きていることにホッとしたように息を吐いていたが、部屋の中に入り私の様子を窺うように見つめる。

「顔色が悪いわ」
「温かいお茶を用意してもらいましょう」

 心配そうに私を見る彼女たちに、「大丈夫」と伝えるために口を開こうとしたら、ジェリーがパタパタと部屋から出て行ってしまった。

「……大丈夫なのに」
「そんな顔色で言われても、説得力がないですわよ、リザ」

 め、と幼い子を叱るように言われて、私は肩をすくめた。
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