136 / 252
4章
4章9話(309話)
しおりを挟む
宿屋は村とは思えないくらい立派なものだった。
「とても立派な宿屋ね」
アミーリア様が宿屋を眺めながらぽつりと言葉をこぼす。女性は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。昔はとっても盛況していたんですよ」
と嬉々として語ってくれた。カナリーン王国が滅ぶ前はたくさんの旅人たちが立ち寄ってくれていたらしい。しかし、滅んでからはあの重苦しい空気のせいでここまで来る旅人が激減し、いつかまた宿屋に多くの人たちが泊ってくれることを夢見て、今でも清掃はバッチリしている、とのことだ。
「適当に座ってください。今、飲み物を用意しますね。と言っても、水ですけど!」
女性はそう言うとパタパタと走る。コップに水を注ぎ、空いている席に座っている私たちに渡してくれた。
「……ええと、カナリーン王国の伝承、でしたよね。口頭で伝えられていたので、いろいろあやふやなところも多いので、そこはご了承ください」
ぺこりと頭を下げる女性に、私たちは慌てて両手を振った。
「そんなにかしこまらないでください。聞きたいのは、私たちのほうですから」
私の言葉に顔を上げて、ホッとしたように微笑む女性。女性はこほん、と咳払いをひとつしてから、カナリーン王国について語り出した。
「まず、カナリーン王国があった土地は、魔石がたくさんありました。その魔石の影響で土地に魔力が溢れ、『人が住める土地』ではありませんでした。ですが、その土地に目を付けた王国がいまして、……ウォルテア王国が魔術師たちを派遣したのです」
淡々とした口調で語る女性。ウォルテア王国が関わっていることにブランドン様たちは驚いたようで、息を呑んでいた。
「魔石の魔力で『魔力酔い』をする魔術師が増え、それに耐えるために『マジックバリア』が編み出されたと聞いております」
……マジックバリアって、そんな経緯で生まれたのね……。知らなかった。それに魔力酔いという言葉も初めて聞いたわ。
「マジックバリアのおかげで、魔力酔いをする人が少なくなりました。それでも酔う人はその地から去ったようです」
女性は一度水を飲んで、ゆっくりと息を吐いた。それからまた私たちを――いえ、私をじっと見つめて語り出す。
「『人が住めない土地』に人が現れたため、天上の神々が興味を示し、月の女神が様子を見に地上に降臨した、と伝えられています」
そのときの光景は、夢で見た気がする。
「その後、地上の人間と恋に落ちた月の女神は、ふたりの間に生まれた子どもをカナリーン王国の初代国王になりました。月の女神の血を引いた子は魔力が高く、宝石のような黄金の瞳――宝石眼を持っていたと聞いています」
あなたのような、と言われているようだった。私の場合、宝石眼になったのは後天性だったけれど、もしも先天性だったらと考えると……少し怖くなった。
「とても立派な宿屋ね」
アミーリア様が宿屋を眺めながらぽつりと言葉をこぼす。女性は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます。昔はとっても盛況していたんですよ」
と嬉々として語ってくれた。カナリーン王国が滅ぶ前はたくさんの旅人たちが立ち寄ってくれていたらしい。しかし、滅んでからはあの重苦しい空気のせいでここまで来る旅人が激減し、いつかまた宿屋に多くの人たちが泊ってくれることを夢見て、今でも清掃はバッチリしている、とのことだ。
「適当に座ってください。今、飲み物を用意しますね。と言っても、水ですけど!」
女性はそう言うとパタパタと走る。コップに水を注ぎ、空いている席に座っている私たちに渡してくれた。
「……ええと、カナリーン王国の伝承、でしたよね。口頭で伝えられていたので、いろいろあやふやなところも多いので、そこはご了承ください」
ぺこりと頭を下げる女性に、私たちは慌てて両手を振った。
「そんなにかしこまらないでください。聞きたいのは、私たちのほうですから」
私の言葉に顔を上げて、ホッとしたように微笑む女性。女性はこほん、と咳払いをひとつしてから、カナリーン王国について語り出した。
「まず、カナリーン王国があった土地は、魔石がたくさんありました。その魔石の影響で土地に魔力が溢れ、『人が住める土地』ではありませんでした。ですが、その土地に目を付けた王国がいまして、……ウォルテア王国が魔術師たちを派遣したのです」
淡々とした口調で語る女性。ウォルテア王国が関わっていることにブランドン様たちは驚いたようで、息を呑んでいた。
「魔石の魔力で『魔力酔い』をする魔術師が増え、それに耐えるために『マジックバリア』が編み出されたと聞いております」
……マジックバリアって、そんな経緯で生まれたのね……。知らなかった。それに魔力酔いという言葉も初めて聞いたわ。
「マジックバリアのおかげで、魔力酔いをする人が少なくなりました。それでも酔う人はその地から去ったようです」
女性は一度水を飲んで、ゆっくりと息を吐いた。それからまた私たちを――いえ、私をじっと見つめて語り出す。
「『人が住めない土地』に人が現れたため、天上の神々が興味を示し、月の女神が様子を見に地上に降臨した、と伝えられています」
そのときの光景は、夢で見た気がする。
「その後、地上の人間と恋に落ちた月の女神は、ふたりの間に生まれた子どもをカナリーン王国の初代国王になりました。月の女神の血を引いた子は魔力が高く、宝石のような黄金の瞳――宝石眼を持っていたと聞いています」
あなたのような、と言われているようだった。私の場合、宝石眼になったのは後天性だったけれど、もしも先天性だったらと考えると……少し怖くなった。
30
お気に入りに追加
8,755
あなたにおすすめの小説
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。