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4章

4章9話(309話)

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 宿屋は村とは思えないくらい立派なものだった。

「とても立派な宿屋ね」

 アミーリア様が宿屋を眺めながらぽつりと言葉をこぼす。女性は嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとうございます。昔はとっても盛況していたんですよ」

 と嬉々として語ってくれた。カナリーン王国が滅ぶ前はたくさんの旅人たちが立ち寄ってくれていたらしい。しかし、滅んでからはあの重苦しい空気のせいでここまで来る旅人が激減し、いつかまた宿屋に多くの人たちが泊ってくれることを夢見て、今でも清掃はバッチリしている、とのことだ。

「適当に座ってください。今、飲み物を用意しますね。と言っても、水ですけど!」

 女性はそう言うとパタパタと走る。コップに水を注ぎ、空いている席に座っている私たちに渡してくれた。

「……ええと、カナリーン王国の伝承、でしたよね。口頭で伝えられていたので、いろいろあやふやなところも多いので、そこはご了承ください」

 ぺこりと頭を下げる女性に、私たちは慌てて両手を振った。

「そんなにかしこまらないでください。聞きたいのは、私たちのほうですから」

 私の言葉に顔を上げて、ホッとしたように微笑む女性。女性はこほん、と咳払いをひとつしてから、カナリーン王国について語り出した。

「まず、カナリーン王国があった土地は、魔石がたくさんありました。その魔石の影響で土地に魔力が溢れ、『人が住める土地』ではありませんでした。ですが、その土地に目を付けた王国がいまして、……ウォルテア王国が魔術師たちを派遣したのです」

 淡々とした口調で語る女性。ウォルテア王国が関わっていることにブランドン様たちは驚いたようで、息をんでいた。

「魔石の魔力で『魔力酔い』をする魔術師が増え、それに耐えるために『マジックバリア』が編み出されたと聞いております」

 ……マジックバリアって、そんな経緯で生まれたのね……。知らなかった。それに魔力酔いという言葉も初めて聞いたわ。

「マジックバリアのおかげで、魔力酔いをする人が少なくなりました。それでも酔う人はその地から去ったようです」

 女性は一度水を飲んで、ゆっくりと息を吐いた。それからまた私たちを――いえ、私をじっと見つめて語り出す。

「『人が住めない土地』に人が現れたため、天上の神々が興味を示し、月の女神が様子を見に地上に降臨した、と伝えられています」

 そのときの光景は、夢で見た気がする。

「その後、地上の人間と恋に落ちた月の女神は、ふたりの間に生まれた子どもをカナリーン王国の初代国王になりました。月の女神の血を引いた子は魔力が高く、宝石のような黄金の瞳――宝石眼を持っていたと聞いています」

 あなたのような、と言われているようだった。私の場合、宝石眼になったのは後天性だったけれど、もしも先天性だったらと考えると……少し怖くなった。
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