そんなに嫌いなら、私は消えることを選びます。

秋月一花

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4章

4章5話(305話)

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 馬車に揺られながら、私はヴィニー殿下とジェリーを交互に見た。そのことに気付いたふたりが、同時に首を傾げる。

「……あの、ジェリー。本当について来てよかったの?」
「ええ、もちろん。それに、この本も必要だと言われたので……」

 ジェリーは鞄か『呪いの書』を取り出した。ドクン、と鼓動が嫌な感じに跳ねた。

「あの本、僕が持とうとしたら拒絶したんだよね。魔力を抑える布でくるんでようやく持てる感じだった。……この本を素手で持てるのは、恐らくカナリーン王国の王族の血を受け継ぐもの……つまり、きみとジェリー嬢くらいだろう」

 しまっていいよ、と言われたジェリーは、素直に本を鞄に戻した。

「……カナリーン王国の王族は、まだいるのでしょうか?」
「わからない。……ただ、ジェリー嬢の力が必要になると思った」

 ヴィニー殿下がそう感じたということは、きっとそうなるのだろう。

「……役に立てるのならよいのですが……ちょっと不安です」

 ジェリーは眉を下げて肩をすくめた。ちなみに、馬車には私とジェリーが一緒に座り、私の真正面にヴィニー殿下が座っている。護衛をつけると言っていたが、精霊たちもいるし、シー兄様もいらっしゃるので断った。

 あまり大勢で向かったら、逆に大変なことになるから、とはアル兄様の言葉だ。巫子の力を強く引き継いだ彼らの言葉は説得力がある。

「大丈夫よ、ジェリー。私も自分が役に立てるとは思っていないわ」

 私自身の力はとても小さなもので、役に立つのは恐らく月の女神の力だろう。それを私の力だとは、到底思えなかった。

「そんなことは……!」

 とジェリーが言うのを、首を横に振って制する。私はそっと自分の胸元に手を置いた。

「でもね、がんばるつもりよ。だから、ジェリーも一緒にがんばってくれると嬉しいわ」
「……はい!」

 ジェリーの返事を聞いてほっと小さく息を吐く。すると、ヴィニー殿下がにこにこと笑っていることに気付いた。

「……ヴィニー殿下?」
「いや、リザは本当に『姉』なんだなぁと思って」

 楽しそうな表情を見て、私とジェリーは顔を見合わせた。ジェリーはどこか嬉しそうに見えた。

「……姉ですもの」

 と一言だけ返すと、ヴィニー殿下は「そうだね」と微笑んだ。

「そういえば、早朝だったからなにも食べていないでしょ。はい、これ」

 横に置いてあったバスケットの蓋を開けた。中にはサンドウィッチがぎっしりと詰められていて、驚いた。

「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
「い、いただきます」

 サンドウィッチを受け取り、ぱくりと食べた。……美味しい。いつも料理を作ってくれる、アンダーソン家の料理とはまた味が違う。

「クリフ様の手作りだよ」
「ひいおじいさまの!?」

 ビックリして思わず大きな声を上げてしまった。ジェリーは「魔塔の方でしたよね?」と確認するように聞いてきたので、うなずいた。

「ええ。アンダーソン家のお母様……の、祖父に当たる方よ」
「クリフ様は確か……カーライル家の出身ですものね。魔塔に在籍されているのも納得です」
「……よく知っているね?」
「商売は情報が必要ですから」

 にこり、と微笑むジェリーに、私とヴィニー殿下は目を丸くした。

 いろいろな情報を収集しているんだろうな、と思いジェリーを見つめた。
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